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## 隣人たちの甘い毒

初夏の陽射しがアスファルトを焦がす昼下がり。俺、田中健一は、いつも通りマンションの自室で、冷房の効いた快適な空間に身を沈めていた。窓の外では、セミの鳴き声が不協和音を奏で、夏の到来を告げていた。俺は、この静かで穏やかな日常を愛していた。そして、この日常を彩る、もう一つの存在があった。

それが、俺の隣に住む人妻たちだ。

彼女たちは皆、それぞれに魅力的だった。まず、向かいに住む佐々木玲子さん。彫刻のように整った顔立ちに、すらりとした長身。いつも上品なワンピースを身にまとい、その微笑みは、まるで宝石のように輝いていた。彼女の夫は海外赴任が多く、一人でマンションに住んでいるとよく耳にした。

そして、右隣に住む山田花子さん。明るい笑顔がチャームポイントで、いつも元気いっぱいの太陽のような女性だ。彼女は専業主婦で、可愛らしい子供が二人いる。夫は忙しいサラリーマンで、共働きのため、彼女の生活は日中、家事と育児に追われているようだった。

左隣には、最近引っ越してきたばかりの佐藤優子さん。まだ年齢は若いのだが、どこか儚げな雰囲気を漂わせ、その瞳には深い憂いを秘めているように見えた。彼女については、まだあまり詳しいことは知らない。

俺が彼女たちに特別な感情を抱いているのは、決して性的な欲望だけではない。それは、何というか、不思議な魅力に惹かれているというべきか。彼女たちの日常のふとした瞬間に垣間見える、妖艶な気配。それは、男の心をくすぐり、同時に、抗いがたい憧れのようなものを掻き立てるのだ。

ある日、俺はふとしたことから、彼女たちの秘密を知ることになる。それは、ある特定の言葉を耳にすると、まるで強力な媚薬を摂取したかのような、形容しがたい快感が全身を襲うという、恐るべき症候群だった。そして、この症候群は、なぜか女性にだけ突然発症し、一度発症すると、その快感に囚われ、抗うことができなくなってしまうらしい。

その日、俺は玲子さんの部屋から流れてくる音楽に、いつもとは違う奇妙な響きを感じていた。それは、まるで言葉にならない、しかし、耳にする者の心を蕩かしてしまうような、魅惑的な響きだった。興味を引かれた俺は、ついドアに耳を澄ませてしまった。

「…あら、健一さん、いらっしゃい。」

ドアが開いたかと思うと、玲子さんがひょっこり顔を出した。彼女は、いつもより少し乱れた髪と、紅潮した頬をしていた。そして、その瞳は、夢見るような、陶酔したような光を宿していた。

「あの、音楽が…」

俺が言いかけると、玲子さんはふっと微笑んだ。その微笑みは、いつもの上品なものではなく、どこか熱を帯びた、誘うような微笑みだった。

「あら、聞こえてしまいましたか？」

彼女はそう言うと、俺の手を取った。その手は、驚くほど熱かった。

「実はね、私、最近、ある言葉にすごく敏感になっているんです。」

玲子さんは、耳元で囁くように言った。その声は、まるで絹のように滑らかで、俺の体の中に、じんわりと染み込んでいくようだった。

「どんな言葉なんですか？」

俺は、思わず息を呑んだ。彼女の吐息が、首筋にかかる。

「うーん、なんて言ったらいいのかしら…。でも、その言葉を聞くと、体が…体が、こう、ふわふわして、全身が熱くなるの。」

彼女はそう言って、自分の胸元をそっと押さえた。その仕草に、俺の心臓は激しく高鳴った。

「でも、それだけじゃなくて…もっと、もっと、深いところに、何かが、こう…」

玲子さんは言葉を探しながら、俺の顔をじっと見つめた。その瞳の奥に揺らめく光は、俺の理性を溶かしていくようだった。

「…わ、私、このままじゃ、ダメになりそうです。」

彼女はそう言って、力なく俺の肩にもたれかかった。その体温が、俺の全身に伝わる。

その夜、俺は眠れなかった。玲子さんが言っていた「ある言葉」。それが一体何なのか、そして、彼女に何が起こっているのか。想像するだけで、俺の体は熱くなった。もし、それが事実なら、彼女は一体どんな快感に身を委ねているのだろうか。

翌日、俺は恐る恐る、玲子さんの部屋のドアをノックした。昨夜の出来事が、まるで悪夢のように感じられていた。

「…健一さん？」

ドアが開くと、そこにいたのは、昨夜とは打って変わって、いつもの静かで上品な玲子さんだった。しかし、その顔には、どこか隠しきれない疲労の色が浮かんでいた。

「おはようございます。昨日は、お騒がせしました。」

彼女はそう言って、少しだけ微笑んだ。その微笑みは、どこか力なく、儚げだった。

「いえ、大丈夫ですか？何か、体調でも…」

俺が心配そうに尋ねると、玲子さんは小さく首を横に振った。

「大丈夫です。ただ、昨夜は少し、眠れなくて。」

彼女はそう言って、視線を落とした。その横顔は、まるで芸術作品のように美しかった。

「あの、昨夜のことなんですけど…」

俺が口を開こうとすると、玲子さんは、俺の言葉を遮るように、そっと手を差し出した。

「健一さん、お願いがあります。」

彼女の瞳は、真剣そのものだった。

「私、最近、ある言葉を聞くと、どうしようもなく、体が…」

彼女はそう言いかけ、言葉に詰まった。その顔には、恥じらいとも、恐怖ともつかない、複雑な表情が浮かんでいた。

「…もし、もし、健一さんが、その言葉を、私に言ってくれたら…」

玲子さんは、震える声で続けた。その声は、まるで、誘うように、俺の心を掻き乱した。

「…どうなるんですか？」

俺は、自分でも驚くほど、冷静に問い返していた。しかし、その内側では、激しい感情の波が渦巻いていた。

「…わかりません。でも、このままじゃ、私、本当に、壊れてしまいそうです。」

彼女はそう言って、俯いた。その肩が、小さく震えているように見えた。

その日から、俺の日常は、一変した。俺は、玲子さんとの秘密の共有者になった。彼女が「ある言葉」を口にした時、俺はその言葉を、彼女に聞かせなければならなかった。そして、その言葉を聞いた玲子さんは、まるで魔法にかかったかのように、恍惚とした表情を浮かべ、全身で快感に身を委ねた。

それは、言葉にできないほどの、官能的な光景だった。彼女の瞳が蕩け、肌は紅潮し、喘ぎ声は、まるで甘い毒のように、俺の五感を刺激した。俺は、その光景に、抗うことができなかった。

玲子さんだけではない。ある日、花子さんの夫が海外出張で不在にした際、彼女の部屋からも、あの奇妙な音楽が聞こえてきた。そして、数日後、俺は、偶然エレベーターで花子さんと乗り合わせた。彼女の顔は、玲子さんと同じように、紅潮し、瞳には、あの夢見るような光が宿っていた。

「…健一さん、こんにちは。」

彼女は、いつもより少し掠れた声で挨拶した。そして、俺の顔を見るなり、その表情は、さらに恍惚としたものへと変わった。

「…あの、健一さん、私、最近、どうも変なんです。」

花子さんは、そう言って、俺の腕にしがみついた。その力強さに、俺は少し戸惑った。

「どうしたんですか？何かあったんですか？」

「ううん、そういうわけじゃなくて…。ただ、なんか、体が、こう、熱くなっちゃって…」

彼女はそう言って、自分の頬を指でつねった。その指先が、俺の腕に触れる。

「…特に、ある言葉を聞くと、もう、どうしようもなく…」

花子さんは、そう言いかけ、言葉を詰まらせた。その顔は、まるで、禁断の果実を味わっているかのような、妖艶な微笑みを浮かべていた。

俺は、このマンションに住む女性たちに、一体何が起こっているのか、次第に理解し始めていた。それは、おそらく、ある特定の「言葉」が、彼女たちの体に、抗いがたい影響を与えているのだ。そして、その「言葉」は、俺が知らず知らずのうちに、彼女たちに聞かせている、あるいは、彼女たちがどこかで耳にしている、何らかの音や言葉である可能性が高かった。

俺の頭の中は、好奇心と、そして、抑えきれない興奮でいっぱいだった。もし、これが事実なら、俺は、このマンションに住む、すべての「人妻たち」の秘密を知りうる立場にいることになる。そして、もし、その「秘密」を、俺自身が引き起こしているとしたら…。

その考えが、俺の心を支配した。俺は、まるで、禁断の遊戯に足を踏み入れたかのような、背徳的な興奮を感じていた。

さらに、最近引っ越してきた優子さん。彼女の儚げな雰囲気に、俺は、秘めたる情熱を感じていた。ある日、優子さんの部屋の前を通りかかった時、ドアの隙間から、彼女の甘い歌声が漏れ聞こえてきた。それは、まるで、魂を揺さぶるような、切なくも美しい歌声だった。

翌日、偶然、マンションの廊下で優子さんと顔を合わせた。彼女の顔色は、少し青白く、その瞳は、どこか虚ろだった。

「…こんにちは。」

俺が声をかけると、優子さんは、はっとしたように顔を上げた。

「…あ、田中さん、こんにちは。」

彼女の声は、いつものように静かだったが、どこか微かに震えているように聞こえた。

「あの、昨日、歌声が聞こえたんですが、とても綺麗でしたよ。」

俺は、彼女を気遣うように言った。

優子さんは、その言葉を聞いた途端、顔を赤らめた。そして、その瞳は、あの玲子さんや花子さんと同じような、夢見るような光を宿し始めた。

「…田中さん、私、最近、どうも、おかしくて。」

彼女は、そう言って、俺の胸に顔を埋めた。その体温が、俺のシャツ越しに伝わってくる。

「…なんか、体が、火照るんです。特に、あの歌を歌うと…」

優子さんは、そう言って、俺の首筋に顔を寄せた。その吐息が、俺の肌を撫でる。

「…そして、その、歌の中に、ある、言葉があって…」

彼女は、そう言って、言葉を詰まらせた。その指先が、俺の顔に触れる。

俺は、このマンションに住む「人妻たち」が、皆、同じような症状に苦しんでいるのではないかと、確信するようになった。そして、その原因は、おそらく、彼女たちが口ずさむ「歌」や、耳にする「言葉」の中に隠されている。

俺は、この秘密を、一人で抱えきれなくなっていた。それは、俺の好奇心を煽り、そして、抗いがたい欲望を掻き立てた。もし、この「症候群」が、俺の仕業だとしたら？もし、俺が、彼女たちに、あの「甘い毒」を、与えているとしたら？

その考えが、俺の心を支配した。俺は、このマンションの住人たち、特に「人妻たち」の、秘密に触れようとしていた。そして、その秘密に触れることは、俺自身をも、変えてしまうのかもしれない。

俺は、窓の外に目をやった。夏の陽射しは、依然として強く、アスファルトを焦がしていた。しかし、俺の心の中には、もう、あの頃の穏やかな日常は、存在しなかった。俺は、このマンションに住む「人妻たち」の、秘密の扉を開けてしまったのだ。そして、その扉の向こうには、抗いがたい快感と、そして、俺自身を蝕むような、甘い毒が待ち受けているのかもしれない。

考えただけで、俺の勃起は治まらなかった。それは、このマンションに住む「人妻たち」に、俺が、どんな秘密を、これから解き明かしていくのか。そして、その秘密が、俺自身を、どのように変えていくのか。その想像は、俺を、禁断の快感へと誘う、甘い毒となっていた。