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## 陽だまりの裏側

陽光が柔らかく降り注ぐ、東京の片隅にある下町。そこには、古き良き時代の雰囲気を色濃く残す商店街があった。その一角にある、少し古びた、しかし清潔感あふれる小さな惣菜店「おふくろの味」。そこで働くのは、店主のハナ（50歳）。腰まで届く艶やかな黒髪を一つに束ね、いつもニコニコと朗らかな笑顔を絶やさない。地元の常連客からは「ハナちゃん」と親しみを込めて呼ばれ、その手作りの惣菜はどれも絶品だと評判だった。

ハナは、この店を一人で切り盛りして10年になる。夫を数年前に亡くして以来、女手一つで店を支えてきた。仕事熱心で、早朝から仕込みを始め、閉店後も片付けや翌日の準備に余念がない。その真面目さと、客一人ひとりに丁寧に応対するサービス精神は、地元の人々の間で広く尊敬を集めていた。

「いらっしゃいませ！今日は何になさいますか？」

今日もハナの明るい声が店内に響く。常連の田中さんが、いつものように「ハナちゃん、今日もよろしくな！」と声をかけてくる。

「田中さん、おはようございます！今日はね、うちで漬けたばかりのキュウリの浅漬けがおすすめですよ。パリパリで美味しいんですから！」

ハナはそう言って、キラキラした笑顔を向ける。その笑顔は、まるで太陽のように周りを明るく照らす力を持っていた。しかし、その朗らかな笑顔の裏側で、ハナは誰にも言えない孤独と、満たされない欲求を抱えていた。

夫が亡くなって以来、ハナの生活は仕事一色になった。朝から晩まで働き詰め。自分のための時間はほとんどなく、ましてや恋愛や性的な関係といったものとは無縁の日々。もちろん、独身時代のような性欲が消えたわけではない。むしろ、年齢を重ねるにつれて、身体の奥底に眠る欲望は、静かに、しかし確実に、その存在感を増していくのを感じていた。

「ふぅ…」

閉店後、一人になった店内で、ハナはふとため息をついた。今日も一日、疲れた。しかし、疲労感よりも、体の内側から湧き上がる、どうしようもない虚しさのようなものが、彼女を包み込む。

「…もう、無理だわ」

ハナは、カウンターに置かれた鏡を覗き込んだ。白髪が少しずつ増え、顔にはうっすらとシワも刻まれている。それでも、彼女の瞳はまだ輝きを失っておらず、その肌は丁寧な手入れのおかげで、年齢を感じさせないハリを保っていた。

「…でも、なんていうか…体が、まだ、求めてるっていうか…」

ハナは、そっと自分の下腹部に手を当てた。じんわりと熱を帯びているのがわかる。仕事で動き回った体は、程よく汗ばんで、その汗が肌を滑る感覚に、妙な興奮を覚える。

「…ったく、どうしちゃったのかしら、私」

ハナは、まるで自分自身を責めるように呟いた。しかし、その声には、どこか甘やかな響きも混じっていた。

ある暑い日の夕暮れ時。いつものように閉店作業を終え、ハナは店を出た。日差しは和らいだが、まだ気温は高く、アスファルトの熱気が立ち込めている。彼女は、汗ばんだ額を手の甲で拭った。

「あー、暑かったわねぇ…」

そんな時、ふと、店の向かいにある、昔ながらの銭湯の暖簾が目に入った。

「そういえば、最近お風呂入ってなかったわ…」

ハナは、その銭湯に吸い寄せられるように入っていった。湯気で曇った鏡に映る自分の姿は、仕事で疲れた顔をしている。しかし、湯船に浸かると、体の芯からリラックスしていくのを感じた。

「はぁ～、極楽極楽…」

ハナは、熱い湯に身を沈め、目を閉じた。全身の毛穴が開いていくような感覚。湯気と共に、彼女の体は徐々に熱を帯びていく。

（…なんか、今日の体、変だわ…）

ハナは、自分の体に起こっている変化に気づいていた。湯船の中で、彼女の体は、まるで夏の太陽に焦がされたように、熱を帯び、敏感になっていた。普段は仕事に集中しているために意識しない、体の奥底にある、原始的な欲求が、湯気と共に立ち昇ってくる。

（…ダメだわ、こんなこと考えてたら…）

ハナは、慌てて思考を打ち消そうとした。しかし、一度芽生えた欲望は、そう簡単に抑え込めるものではなかった。彼女は、そっと自分の太ももの内側を撫でた。濡れた肌が擦れ合う感触が、妙に心地よい。

（…仕事ばっかりで、誰かと触れ合うことなんて、すっかり忘れてた…）

ハナは、夫を亡くしてから、男性と親密な関係を持つことはなかった。もちろん、出会いがなかったわけではない。しかし、仕事で疲れていることや、新しい関係を築くことへの気恥ずかしさから、いつも一歩引いてしまっていた。

（…この、体の熱さ…この、じっとしているのがもどかしい感じ…これって、やっぱり…）

ハナは、湯船の中で、そっと自分の股間に手を伸ばした。濡れた指先が、敏感な箇所に触れる。じんわりと熱を帯び、脈打つような感覚。

「…っ！」

思わず、小さな呻き声が漏れた。誰かに聞かれているわけでもないのに、ハナは顔が赤くなるのを感じた。

（…なんてこと、してるのかしら、私…）

しかし、その羞恥心よりも、体の内側から湧き上がる、抗いがたい快感が、彼女を包み込んでいた。仕事で使った足は、程よく筋肉が張っていて、その感触がまた、彼女の感覚を研ぎ澄ませる。

（…もっと、熱くなりたい…もっと、溶けてしまいたい…）

ハナは、湯船の中で、そっと体をくねらせた。湯気が彼女の裸体を包み込み、その影に隠れるように、彼女の秘密の欲求が、静かに、しかし力強く、脈打っていた。

銭湯から出たハナは、いつものように店に戻り、明日の仕込みの準備を始めた。しかし、体の芯には、まだ湯気と、そして、彼女自身が掻き立てた熱が残っていた。

「…おかしいわね、私」

ハナは、独り言ちた。しかし、その声には、隠しきれない満足感が滲んでいた。

翌日。ハナは、いつも通り、笑顔で客を迎えた。

「いらっしゃいませ！今日はね、茄子の揚げ浸しがおすすめですよ。出汁がきいてて、とろりとしてて、美味しいんですから！」

ハナの笑顔は、昨日とはまた違った輝きを帯びていた。その瞳の奥には、昨夜の秘密の興奮の余韻が、まだ残っているかのようだった。

「ハナちゃん、なんか、今日、一段と綺麗になったねぇ」

常連の佐藤さんが、そう言ってハナの顔をじっと見つめた。

「あら、そうですか？嬉しいわ！」

ハナは、照れたように微笑んだ。

（…佐藤さん、私のこと、ちゃんと見てくれてるのね…）

ハナは、佐藤さんの言葉に、胸が温かくなるのを感じた。仕事に追われる日々の中で、誰かに「綺麗だ」と言われることの嬉しさを、改めて実感していた。

その日、ハナはいつも以上に、サービス精神を燃え上がらせていた。客一人ひとりに、より親切に、より丁寧に。そのサービス精神は、単なる仕事への責任感からくるものではなく、彼女自身の内側から溢れ出る、活力が源泉となっていた。

「これも、どうぞ！」

ハナは、サービスで付けたひじきの煮物に、さらに小さな小皿に盛ったきんぴらごぼうを添えた。

「わぁ、ありがとう、ハナちゃん！」

客は皆、ハナの気配りに感謝し、笑顔で店を出ていく。ハナは、その光景を見て、胸が満たされるのを感じた。

（…私、やっぱり、誰かの役に立ってるんだ…）

仕事の合間、ハナはそっと、自分の体を見つめた。汗ばんだ肌が、陽光を浴びて、健康的な光沢を放っている。仕事で使った腕や足は、程よく引き締まり、その曲線が、女性らしい色香を漂わせている。

（…この体、まだまだ、いけるんだわ…）

ハナは、昨夜の自分を思い出した。あの、熱く、そして官能的な時間。それは、決して忘れることのできない、自分自身への贈り物だった。

「ハナちゃん、ごちそうさまでした！また明日ね！」

客たちが次々と店を出ていく。ハナは、一人、店の中に残された。

「ふぅ…」

今日の仕事も、無事に終わった。しかし、ハナの心には、昨夜のような、内側から燃え上がるような熱が、まだ残っていた。

（…この熱、どうしようかしら…）

ハナは、そっと自分の下腹部に手を当てた。じんわりと熱を帯び、その感触に、彼女はもう、ためらいを感じることはなかった。むしろ、その熱が、彼女を、そして彼女の人生を、より一層輝かせているような気さえした。

「…私、まだまだ、これからだわ」

ハナは、そう呟くと、鏡に映る自分に、満面の笑みを向けた。陽だまりの裏側で、彼女の秘めたる魅力は、静かに、しかし力強く、輝き始めていた。それは、誰かに見せるためではなく、自分自身のために、そして、この人生を豊かに生きるための、彼女だけの輝きだった。