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**勝どきの夕暮れ**

隅田川沿いの遊歩道は、夕暮れ時になるとオレンジ色に染まり、行き交う人々のシルエットを浮かび上がらせる。会社帰りの人々、ジョギングを楽しむ人々、そして、犬の散歩をする人々。その中に、一際落ち着かない様子で佇む若い男がいた。

亮太、22歳。大学を卒業して間もない彼は、小さなIT企業に就職したばかり。人見知りで、女性との会話は得意ではない。しかし、今日、彼はある目的を持ってこの場所に来た。それは、自分を変えるための一歩、いや、半ば強引に突き動かされた挑戦だった。

亮太の友人である翔太は、自称「恋愛マスター」だ。合コンやマッチングアプリを駆使し、常に複数の女性と関係を持っている。そんな翔太から、亮太は常々「もっと積極的になるべきだ」と説教されていた。

「お前はマジで草食すぎる。女性は、自信のある男に惹かれるんだよ。ガツガツ行けとは言わないけど、もっと自分をアピールしろ！」

翔太の言葉は、亮太の心に小さな棘のように引っかかっていた。そんなある日、翔太は亮太に一つの「課題」を与えた。

「一週間以内に、熟女をナンパして、連絡先をゲットしろ。それができたら、お前を『脱・童貞』させてやる！」

亮太は最初、露骨に嫌な顔をした。「熟女って…無理だよ。絶対引かれるし」

しかし、翔太はニヤリと笑って言った。「それがいいんだよ。難しいからこそ、チャレンジする価値がある。それに、熟女は若い男に弱いって言うだろ？意外とイケるかもよ」

こうして、亮太は半ば強制的に、熟女ナンパに挑戦することになったのだ。

勝どきの遊歩道で、亮太は何度も深呼吸を繰り返した。緊張で心臓がバクバクしている。ターゲットとなる女性を探して、辺りをキョロキョロと見回した。

しばらくすると、一人の女性が目に留まった。40代後半くらいだろうか。すらりとしたシルエットで、落ち着いた雰囲気のワンピースを着ている。顔立ちは上品で、知的な印象を受ける。彼女は、夕日に染まる隅田川を眺めながら、静かに佇んでいた。

亮太は覚悟を決めた。これが最初で最後かもしれない。失敗してもいい。とにかく、やってみるしかない。

「あの…すみません」

亮太は、震える声で女性に声をかけた。女性は驚いたように振り返った。

「はい？」

「あの…景色が綺麗ですね」

亮太は、絞り出すように言った。まるで小学生が発表会でセリフを言うかのようだ。

女性は少し戸惑った様子で、微笑んだ。「ええ、そうですね」

「あの…もしよろしければ、少しお話しませんか？」

亮太は、勇気を振り絞って言った。女性は、亮太の顔をじっと見つめた。その視線に、亮太は耐えきれず目をそらしたくなった。

しかし、女性は意外な言葉を口にした。「少しだけなら、いいですよ」

亮太は、信じられない気持ちだった。まさか、本当にOKしてくれるとは。

「ありがとうございます！」

亮太は、慌てて女性の隣に並んだ。

「あの…僕は亮太と言います。近くの会社で働いているんです」

「私は美咲。この近くに住んでいるの」

美咲は、穏やかな口調で答えた。亮太は、少しだけ緊張がほぐれた。

二人は、しばらくの間、隅田川の景色について話をした。美咲は、川の歴史や、そこに生息する鳥たちのことなど、様々な知識を持っていた。亮太は、美咲の話に聞き入り、時折質問を挟んだ。

話が弾むにつれて、亮太は美咲に親近感を抱くようになった。美咲は、優しくて、知性的で、大人の女性としての魅力に溢れていた。

「亮太さんは、まだお若いのに、落ち着いていますね」

美咲は、ふとそう言った。

「いや…そんなことないです。実は、すごく緊張しているんです」

亮太は、正直に答えた。

美咲は、クスッと笑った。「緊張しているんですか？なんだか可愛いわね」

その言葉に、亮太はドキッとした。美咲の笑顔は、とても魅力的だった。

「あの…美咲さんは、何か趣味とかあるんですか？」

亮太は、会話を続けようと、必死に話題を探した。

「そうね…最近は、料理教室に通っているの。あと、月に一度、着付け教室にも行っているわ」

美咲は、楽しそうに答えた。

「へえ、すごいですね。僕、料理とか全然できないんですよ」

「あら、もったいないわ。料理ができる男性は、モテるわよ」

美咲は、冗談めかして言った。

「そうなんですか？じゃあ、僕も料理を勉強してみようかな」

亮太は、照れながら言った。

その時、美咲の携帯電話が鳴った。美咲は、電話に出ると、少しだけ話し、すぐに電話を切った。

「ごめんなさい。ちょっと急用ができたので、そろそろ帰らないと」

美咲は、申し訳なさそうに言った。

「あ、はい。全然大丈夫です」

亮太は、少し残念そうに答えた。

「今日は、お話できて楽しかったです。ありがとう」

美咲は、そう言って、亮太に微笑みかけた。

「僕も、すごく楽しかったです。あの…もしよかったら、連絡先を交換しませんか？」

亮太は、最後の勇気を振り絞って言った。

美咲は、少し考えた後、笑顔で答えた。「いいわよ」

亮太は、慌てて自分の携帯電話を取り出し、美咲に連絡先を教えた。

「じゃあ、また連絡しますね」

美咲は、そう言って、亮太に手を振って去っていった。

亮太は、美咲の後ろ姿をしばらく見送っていた。そして、美咲が見えなくなると、ガッツポーズをした。

「やった！連絡先ゲットだ！」

亮太は、興奮を抑えきれずに叫んだ。

その夜、亮太は翔太に電話をかけた。

「翔太、やったぞ！熟女ナンパ、成功した！」

翔太は、電話口で大笑いした。「マジかよ！すげえじゃん！お前、本当に変わったな！」

「これも、翔太のおかげだよ。ありがとう」

亮太は、感謝の気持ちを込めて言った。

「まあな。でも、これはまだ始まりにすぎないぞ。これからが本番だ。頑張れよ！」

翔太は、亮太を励ました。

亮太は、美咲との出会いをきっかけに、少しずつ自分を変えていこうと決意した。人見知りを克服し、積極的に行動し、自分を磨いていく。そして、いつか、美咲ともう一度会って、もっと深い関係になれたら…そんな夢を抱きながら、亮太は新しい一歩を踏み出した。

数日後、亮太の携帯に美咲からメッセージが届いた。「今度、一緒に料理教室に行きませんか？」