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## 陽だまりの小道

夏草の匂いが微かに鼻腔をくすぐる。梅雨明け間近の空は、どこまでも青く澄み渡り、雲一つない。そんな初夏の午後、真央と沙耶は、数年ぶりに訪れる海辺の町への小旅行を楽しんでいた。

「ねぇ、真央、あのカフェ、すっごい可愛い！入ろっか？」

沙耶が指差す先には、真っ白な壁に青い屋根が印象的な、可愛らしい一軒のカフェがあった。窓辺には色とりどりの花が飾られ、そこから漏れる陽光が、まるで宝箱を開けたかのようにキラキラと輝いている。

「ほんとだ！沙耶らしいチョイスだね。」

真央は沙耶の肩に腕を回しながら、カフェへと向かった。二人は高校時代からの親友で、卒業以来、それぞれの道を歩んでいたが、こうして時折、こうして遠出をしては、学生時代の思い出話に花を咲かせていた。

カフェの中は、窓から差し込む光で満たされ、穏やかな時間が流れていた。アンティーク調の家具や、壁に飾られた絵画が、温かい雰囲気を醸し出している。真央と沙耶は、窓際の席に座り、メニューを広げた。

「迷うな～！でも、この『夏色ソーダ』って名前、気になる！」

沙耶が目を輝かせながら言う。真央も「私もそれにしようかな」と同意し、二人はそれぞれ夏色ソーダを注文した。

運ばれてきたソーダは、名前の通り、鮮やかな青色と緑色が層になっており、見た目も涼やかだ。一口飲むと、甘酸っぱいシロップの味が口いっぱいに広がり、疲れが吹き飛んでいくようだった。

「美味しい！なんか、元気出てきた！」

沙耶は満面の笑みで、グラスを傾けた。真央も、ソーダの爽やかな甘さを楽しみながら、沙耶の弾んだ声に微笑んだ。

「ところでさ、沙耶、最近どう？彼氏とは順調？」

真央が何気なく尋ねると、沙耶は少し照れたように笑った。

「まあ、ぼちぼちかな。でもさ、最近ちょっと、新しい刺激が欲しくなっちゃって。」

沙耶の言葉に、真央は思わず身を乗り出した。

「新しい刺激？って、どういうこと？」

沙耶は少しいたずらっぽい笑みを浮かべ、真央の耳元で囁いた。

「なんかね、色んなことに挑戦したい気分なんだ。例えば、普段なら絶対しないようなこととか。」

その言葉に、真央の胸にも、かすかなドキドキが走った。沙耶が「色んなことに挑戦したい」と言う時、それはいつも、少し大胆で、でもどこか魅力的な冒険の始まりを予感させるのだ。

「ふふ、沙耶らしいね。でも、具体的にどんなこと？」

真央が興味津々に尋ねると、沙耶はさらに声を潜めた。

「例えばさ、ナンパとか？なんちゃって！」

沙耶が冗談めかして言った瞬間、カフェの入り口に、二人の男性が入ってきた。一人は、黒縁メガネをかけた、落ち着いた雰囲気の男性。もう一人は、明るい笑顔が印象的な、爽やかな青年だった。

「あれ、もしかして…？」

真央が沙耶に視線を送ると、沙耶も驚いたように目を見開いていた。二人の男性は、カフェの中を見渡すと、真央と沙耶のテーブルに近づいてきた。

「あの、もしよろしければ、お隣、よろしいでしょうか？」

黒縁メガネの男性が、丁寧な言葉遣いで尋ねてきた。真央と沙耶は顔を見合わせたが、断る理由もなく、静かに頷いた。

「ありがとうございます。私、田中といいます。こちらは、佐藤くんです。」

田中と名乗った男性は、穏やかな笑顔で自己紹介をした。佐藤と名乗った青年も、明るく挨拶をしてくれた。

「私、真央といいます。こちらは、沙耶です。」

真央が自己紹介をすると、田中は沙耶の方を見て、微笑んだ。

「沙耶さん、とっても可愛らしいですね。もしかして、お友達と旅行中ですか？」

その言葉に、沙耶の顔がほのかに赤くなる。

「あ、はい。そんな感じです。」

沙耶が恥ずかしそうに答えると、佐藤が間髪入れずに続けた。

「僕たちも、たまたまこの辺りを散策していて。もしよろしければ、少しお話しませんか？この後、海辺を散歩する予定なんですが、もしご迷惑でなければ、ご一緒しませんか？」

佐藤の誘いに、真央は少し戸惑った。ナンパ、という言葉が頭をよぎったからだ。しかし、彼らの目は、どこか純粋で、押し付けがましい感じは一切なかった。むしろ、純粋に会話を楽しみたい、という気持ちが伝わってくる。

「でも、私たち、これから海辺に行こうと思ってたんだけど…」

真央が遠回しに断ろうとした時、沙耶が突然、真央の腕を掴んだ。

「ねぇ、真央！せっかく誘ってくれたんだし、行こうよ！私、海辺で話すの、好きだから！」

沙耶は、期待に満ちた瞳で真央を見つめてきた。その瞳は、まるで「新しい刺激」を求めているかのようだ。真央は、沙耶の勢いに押されるように、頷いた。

「わかった。じゃあ、ご一緒させてもらうね。」

こうして、二人の男性との、予期せぬ出会いが始まった。

海辺に到着すると、夕日が海面をオレンジ色に染め始めていた。風が心地よく頬を撫で、波の音が優しく響く。真央と沙耶は、田中と佐藤の隣を歩きながら、他愛もない会話を楽しんでいた。

「いやー、本当に偶然の出会いでしたね。こんな素敵な出会いがあるなんて、信じられないです。」

田中が、嬉しそうに言った。

「僕もです。沙耶さんの笑顔を見ていたら、このまま時間が止まってしまえばいいのに、なんて思っちゃいました。」

佐藤が、沙耶に向かって真っ直ぐな視線を送る。沙耶は、その言葉に、さらに顔を赤らめていた。

真央は、そんな沙耶の様子を見て、心の中で小さく笑った。沙耶は、普段はこうして男の人に話しかけられると、少し戸惑いながらも、どこか嬉しそうになるのだ。それは、彼女がまだ、恋愛に対して純粋で、そして少しだけ、大胆な冒険に憧れている証拠だった。

「真央さんは、どうですか？この海辺は、初めてなんですか？」

田中が、真央に話しかけてきた。

「はい。でも、すごく雰囲気が良くて、来れて良かったです。」

真央が答えると、田中は嬉しそうに頷いた。

「そう言ってもらえると、嬉しいです。この辺りは、地元の人でもあまり知らない、隠れた名所も多いんですよ。」

田中は、この辺りの詳しい情報を語り始めた。真央は、彼の穏やかな語り口と、知識の豊富さに、次第に惹きつけられていった。

一方、沙耶と佐藤は、少し離れた場所で、楽しそうに話していた。佐藤は、沙耶の好きなものや、趣味について熱心に質問し、沙耶もそれに笑顔で答えている。二人の間には、心地よい空気が流れていた。

「ねぇ、沙耶。あそこの灯台、すっごく綺麗だよ。行ってみない？」

佐藤が、遠くに見える灯台を指差して言った。

「うん！行きたい！」

沙耶は、迷わず佐藤に頷いた。二人は、真央たちから少し離れて、灯台の方へと歩いていった。

真央は、そんな二人を見送りながら、ふと、あることを思った。沙耶が「新しい刺激が欲しい」と言っていたこと。そして、今、沙耶は、まさにその「新しい刺激」に触れているのかもしれない、と。

「真央さん、何か考えているんですか？」

田中が、真央の横に座りながら、優しく尋ねてきた。

「ううん、別に。ただ、沙耶が楽しそうで、良かったなって思って。」

真央が答えると、田中は微笑んだ。

「沙耶さんは、本当に魅力的な方ですね。でも、真央さんも、とても素敵な方ですよ。」

田中は、真央の目を見つめて、そう言った。その瞳には、嘘偽りのない、温かい光が宿っていた。真央は、彼の言葉に、胸がドキドキするのを感じた。

「ありがとうございます。田中さんも、とても優しい方ですね。」

真央が、恥ずかしそうに答えると、田中はさらに微笑んだ。

「もしよろしければ、この後、もう少しお話しませんか？この後、軽く一杯、なんてどうでしょう？」

田中が、誘ってきた。真央は、少し迷ったが、沙耶が楽しんでいる様子を見ると、断る理由もなかった。

「いいですね。私も、もう少し、田中さんのお話を聞きたいです。」

真央が頷くと、田中は嬉しそうに顔を輝かせた。

その頃、灯台の近くで、沙耶は佐藤に、今まで誰にも話したことのなかった、胸の内を打ち明けていた。

「なんかね、私、最近、自分がどうしたいのか、分からなくなっちゃう時があるんだ。」

沙耶が、少し不安げに言うと、佐藤は沙耶の手を優しく握った。

「大丈夫だよ。誰だって、そんな時があるさ。でも、沙耶は、君らしくいれば、きっと大丈夫だ。」

佐藤の言葉は、沙耶の心に、温かい光を灯した。沙耶は、佐藤の温かい手に、自分の手を重ねた。その指先から伝わる優しさが、沙耶の心を、そっと包み込んだ。

「ありがとう、佐藤くん。なんか、すごく、元気が出てきた。」

沙耶が、満面の笑みで言うと、佐藤も、嬉しそうに微笑んだ。

「それは良かった。僕も、沙耶さんと話せて、すごく楽しかったよ。」

二人の間には、初対面とは思えない、自然な会話が続いていた。沙耶は、佐藤の言葉の端々に、自分への好意を感じ取っていた。そして、その好意に、沙耶の胸も、かすかに高鳴っていた。

「ねぇ、佐藤くん。私、最近、色んなことに興味があるんだ。例えば、普段なら絶対しないようなこととか。」

沙耶が、少し大胆に、佐藤に話しかけた。佐藤は、沙耶の言葉に、興味深そうに耳を傾けた。

「へえ、どんなこと？もしよかったら、聞かせてほしいな。」

佐藤が、促すと、沙耶は、少し顔を赤らめながら、でも、どこか楽しそうに、続けた。

「なんかね、こう…普段とは違う、刺激的な体験とか、してみたいな、って。」

沙耶の言葉に、佐藤は、沙耶の瞳の奥にある、純粋な好奇心を見抜いていた。

「なるほどね。沙耶さんは、そういうのに、興味があるんだ。」

佐藤は、沙耶の顔を、じっと見つめながら、そう言った。その視線は、沙耶の心を、直接見透かしているかのようだ。沙耶は、その視線に、少しドキドキしながらも、でも、どこか心地よさを感じていた。

「え、えっと…あのね、佐藤くんは、そういうの、どう思う？」

沙耶が、問いかけると、佐藤は、沙耶の手を、もう一度、優しく握った。

「僕は、君が、君らしくいられるなら、それでいいと思うよ。でも、もし、何か不安なことや、心配なことがあったら、いつでも僕に相談してほしい。」

佐藤の言葉は、沙耶の心を、さらに温かくした。沙耶は、佐藤の温かい手に、自分の手を、さらに強く握り返した。

「ありがとう、佐藤くん。」

沙耶は、心の中で、そう呟いた。

夕闇が迫り、海辺の町は、オレンジ色の光に包まれていた。真央と沙耶は、それぞれの相手と、心地よい時間を過ごしていた。

「今日は、本当に楽しかったです。また、ぜひお会いしたいですね。」

田中が、真央に言った。

「私もです。また、お話できるのを楽しみにしています。」

真央が、笑顔で答えると、田中は、嬉しそうに頷いた。

「じゃあ、また、連絡しますね。」

田中は、そう言って、真央に、名刺を渡した。

一方、沙耶と佐藤も、別れを惜しんでいた。

「今日は、本当に楽しかったよ、沙耶。ありがとう。」

佐藤が、沙耶に言った。

「私も、すごく楽しかった！また、会えると嬉しいな。」

沙耶が、笑顔で答えると、佐藤は、沙耶の髪を、優しく撫でた。

「もちろん。また、必ず会おうね。」

佐藤は、そう言って、沙耶に、連絡先を書いた紙を渡した。

二人の女性調査員は、遠くから、その様子を静かに見守っていた。彼女たちは、真央と沙耶の、純粋な心と、そして、少しだけ冒険心に溢れた、多感な時期の心情を、優しく見守っていた。

「大丈夫そうね。あの子たちなら、きっと、自分たちのペースで、素敵な経験を積んでいくわ。」

一人の調査員が、もう一人に言った。

「ええ。でも、もし、何かあったら、すぐに駆けつけられるように、監視は続けないとね。」

もう一人の調査員が、静かに答えた。

真央と沙耶は、それぞれの胸に、新しい出会いの温かさと、そして、これから始まるかもしれない、未知の世界への期待を抱きながら、家路についた。陽だまりの小道を歩く二人の姿は、どこか楽しげで、そして、これからの物語を、静かに予感させていた。