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小説「熱湯とコーラの祝祭」

「準備はいいかい、あむ？」

男は、カメラのファインダー越しに微笑んだ。その微笑は、あむには冷たく、どこか歪んで見えた。彼女は、目の前の巨大な浴槽を睨みつけた。熱気を帯びた湯気が、彼女の視界を霞ませる。浴槽の縁には、温度計が置かれ、恐ろしいほどの高さを示していた。

あむ、姫崎あむ。二十歳。透明感あふれる小悪魔系グラビアアイドルとして、一部で人気を博していた。しかし、彼女が今いる場所は、そんな華やかな世界とはかけ離れていた。廃墟と化した遊園地の片隅、薄汚れた更衣室。そこが、今日の撮影場所だった。

「…はい」

あむの声は震えていた。数日前、D倶楽部という謎の組織から依頼があった。内容は、彼女にとって理解不能なものだった。水責め。それも、熱湯を使った、過酷な水責め。

「覚えてる？昔、テレビでやってたやつだよ。熱湯責め。懐かしいだろ？」

男の言葉は、嘲笑に満ちていた。あむは、曖昧に頷いた。確かに、かつてバラエティ番組の企画で、熱湯を使った過酷な罰ゲームを見た覚えがあった。だが、それはあくまでもエンターテイメントだった。今、目の前に広がる光景は、エンターテイメントとは程遠い、恐ろしい現実だった。

最初は、足湯から始めた。ほんの数秒間、足裏を熱湯につけただけだった。それでも、あむは悲鳴を上げた。想像をはるかに超える激痛が、彼女の全身を駆け巡った。

「もっと、ゆっくり入れてみようか？」

男は、不気味な笑顔を見せた。あむは、必死に頭を振った。男は、彼女の抵抗を無視して、熱湯の温度をさらに上げた。そして、彼女の両手を熱湯に浸けた。

「押さないで…絶対押さないで…」

あむは、小さく呟いた。彼女の瞳には、涙が溢れていた。それは、痛みによる涙ではなかった。恐怖と、屈辱の涙だった。彼女は、自分が何のために、こんな目に遭っているのか分からなかった。ただ、この苦痛から逃れたい、そう願うばかりだった。

足湯、手湯、そして徐々に浴槽への全身浸漬。時間と共に、あむの抵抗は弱まっていった。彼女の肌は、赤く爛れ、湯気が立ち上る。それでも、男は満足げにカメラを回し続けた。

熱湯責めの後、男はコーラを用意した。大きなペットボトルに入った、炭酸飲料。

「さあ、これを全部飲んでくれるかな？」

あむは、コーラを睨みつけた。熱湯で火照った体に、冷たいコーラを流し込むこと自体が苦痛だった。だが、男の視線は、彼女に選択肢を与えてくれなかった。

あむは、コーラを飲み始めた。一気に飲むことはできなかった。熱いコーラの泡が喉に詰まりそうになり、何度も咳き込んだ。それでも、彼女は男の命令に従い、ゆっくりと、だが確実に、コーラを飲み続けた。

濡れた衣装からは、彼女の乳首が透けて見えた。熱湯とコーラのせいで、彼女の体は限界を超えていた。それでも、男は、あむの苦しみを楽しむようにカメラを回し続けた。

撮影が終わった時、あむは意識を失っていた。男は、彼女の体を無造作に浴槽から引き上げ、放置した。誰もが、あむの身体と精神に深い傷を負わせたこの出来事を忘れるだろう。しかし、あむの心に刻まれた傷跡は、永遠に消えることはないだろう。

熱湯とコーラの祝祭は、終わったのだ。しかし、あむにとって、それは本当の始まりだったのかもしれない。この出来事が、彼女の未来をどう変えてしまうのか、それはまだ誰も分からない。そして、D倶楽部という組織の目的、その影もまた、闇の中にとどまったままだった。  あむは、この出来事を忘れられるのだろうか？  それとも、この記憶は、彼女を永遠に苦しめるのだろうか？