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## 罪深き蜜月の始まり

新緑が目に鮮やかな五月。ひなたは、小さく息を吐き出した。目の前に広がるのは、雑誌で何度も見たことのある、箱根の雄大な山並み。日差しは柔らかく、頬を撫でる風は心地良い。しかし、その清々しい風景とは裏腹に、ひなたの胸中は黒い雲が渦巻いているようだった。

「本当に、これで良かったのかな…」

隣に立つ男、高橋は、ひなたの不安を察したように優しく微笑んだ。「緊張してる？大丈夫だよ、ひなたさん。ゆっくり、楽しみましょう」

高橋は、今回の旅行を取り仕切る男性だ。インターネットで見つけた、ちょっと怪しげな旅行サイトを通じて知り合った。清楚な人妻限定、という謳い文句に、ひなたは目を奪われた。結婚して二年。夫との生活は穏やかで幸せだが、どこか物足りなさを感じていた。

夫の健太は、誠実で優しい。しかし、性に関しては奥手で、ひなたの期待に応えてくれているとは言い難かった。それに、生活は常に金欠状態。旅行なんて夢のまた夢だった。今回の旅行は、宿泊費や交通費だけでなく、謝礼金まで出るという。

「家計の足しになるし、一度くらい、冒険してみてもいいのかも…」

そんな甘い誘惑に負け、ひなたは応募ボタンを押してしまった。

チェックインを済ませ、部屋に通される。落ち着いた和室で、窓からは芦ノ湖が一望できる。ひなたは、持参したバッグをベッドに置き、深呼吸をした。

「想像以上に、素敵なところですね」

高橋は頷き、「気に入って頂けて嬉しいです。まずは温泉にでも入りましょうか。ゆっくり温まって、リラックスしてください」

ひなたは、言われるがままに浴衣に着替えた。大浴場は空いていて、ひなたは一人、湯船に浸かった。熱い湯が、じわじわと身体を温めていく。目を閉じると、健太の顔が浮かんだ。

「ごめんね、健太…」

罪悪感が、胸を締め付ける。しかし、同時に、これまで感じたことのない好奇心が、ひなたの心をくすぐっていた。

夕食は、部屋でゆっくりと懐石料理を味わった。高橋は、ひなたの緊張を解きほぐすように、穏やかな口調で話しかけてくる。仕事の話、趣味の話、そして、夫婦生活の話。

「ひなたさんは、ご主人と仲が良いんですね」

「ええ、まあ…」

ひなたは、曖昧に答えた。本当のことを言う勇気はなかった。

「でも、何か不満があるんじゃないですか？そうでなければ、この旅行に応募したりしないでしょう？」

高橋の言葉に、ひなたはドキッとした。見透かされているような気がした。

「そんな…」

「無理に話す必要はありません。でも、もし何か悩みがあるなら、私に話してみてください。少しは楽になるかもしれませんよ」

高橋の優しい言葉に、ひなたは堰を切ったように、これまでの鬱積した思いを吐き出した。健太との生活、お金のこと、そして、性のこと。

「私、本当はもっと、色んなことを経験してみたいんです。でも、健太はそういうことに全然興味がなくて…」

高橋は、静かにひなたの話を聞いていた。そして、最後にこう言った。

「ひなたさんは、とても魅力的な女性です。もっと自分の欲求に正直になってもいいんじゃないですか？この旅行が、ひなたさんにとって、新しい自分を発見するきっかけになれば、私も嬉しいです」

夕食後、ひなたは高橋に促され、部屋に用意されたマッサージチェアに座った。高橋は、慣れた手つきでひなたの肩や首を揉みほぐしていく。

「気持ちいい…」

ひなたは、うっとりとした表情で呟いた。高橋の手は、徐々に背中、腰へと移動していく。そして、いつの間にか、浴衣の襟元が大きく開いていた。

「ひなたさん、綺麗ですね…」

高橋の声が、ひなたの耳元で囁かれる。ひなたは、抵抗する気力もなかった。

その夜、ひなたは生まれて初めて、激しい快感に身を任せた。高橋は、ひなたの身体の隅々までを知り尽くしているかのように、的確に刺激していく。ひなたは、理性も羞恥心もかなぐり捨て、ただひたすらに快楽を求めた。

翌朝、ひなたは眩しい朝日の中で目を覚ました。隣には、高橋が眠っている。ひなたは、昨夜の激しい行為を思い出し、顔を赤らめた。

「私、一体何を…」

罪悪感が再び押し寄せてくる。しかし、それと同時に、これまで感じたことのない解放感が、ひなたの心を満たしていた。

朝食後、二人は芦ノ湖を遊覧船で巡った。湖上から眺める景色は、格別だった。ひなたは、高橋の隣で、穏やかな時間を過ごした。

「この旅行、本当に来て良かった…」

ひなたは、心からそう思った。

昼食後、高橋はひなたを、箱根ガラスの森美術館に連れて行った。色とりどりのガラス工芸品が、陽光を受けてキラキラと輝いている。ひなたは、その美しさに目を奪われた。

「綺麗…」

高橋は、ひなたの横顔を見つめ、微笑んだ。「ひなたさんのように、輝いていますね」

その言葉に、ひなたはドキッとした。

美術館を後にし、ホテルに戻る途中、高橋はひなたの手を握った。ひなたは、驚きながらも、その手を振り払うことはできなかった。

ホテルに戻り、ひなたと高橋は、再びベッドを共にした。昨夜とは違い、今夜は、より深く、より激しい愛撫を交わした。ひなたは、高橋のテクニックに翻弄され、何度も絶頂を迎えた。

翌朝、ひなたは、名残惜しい気持ちでホテルをチェックアウトした。高橋は、駅までひなたを見送りに来てくれた。

「ひなたさん、また会いましょう」

高橋は、ひなたにそう言い残し、去っていった。

新幹線の車窓から、箱根の山々が遠ざかっていく。ひなたは、今回の旅行を振り返り、複雑な思いに駆られた。

罪悪感、高揚感、そして、ほんの少しの期待。

「私は、変わってしまったのだろうか…」

ひなたは、自分の心に問いかけた。答えは、まだ見つからない。しかし、確実に言えることは、今回の旅行が、ひなたの人生を大きく変えてしまったということだった。

埼玉県内の自宅に戻ったひなたは、健太の顔を見るなり、胸が締め付けられた。

「ただいま」

「おかえり。旅行、どうだった？」

健太は、いつものように優しく微笑んだ。ひなたは、健太に嘘をつくのが、これほど辛いとは思わなかった。

「うん、すごく楽しかったよ」

ひなたは、無理やり笑顔を作った。しかし、その笑顔は、どこかぎこちなかった。

夜、ひなたは健太に抱きしめられた。しかし、ひなたの心は、どこか遠くにあった。健太の優しいキスも、ひなたの心を揺さぶることはなかった。

ひなたは、健太の腕の中で、静かに涙を流した。

「ごめんね、健太…」

ひなたは、心の中で呟いた。

ひなたの心には、高橋の残した甘い蜜が、まだ残っていた。そして、その蜜は、ひなたを新たな背徳の世界へと誘おうとしていた。ひなたは、その誘惑に抗うことができるのだろうか。それとも、再び罪の淵へと堕ちていくのだろうか。

清楚な人妻の、罪深き蜜月は、まだ始まったばかりだった。