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## 面接室の熱気

「はぁ…」

深いため息が、面接室の重厚な空気を揺らした。冷たい金属のデスク、無機質な壁、そして無表情でこちらを見つめる面接官の二人。田辺は、背筋を伸ばし、できる限り自然な笑顔を浮かべようと努めたが、口角は微かに震えていた。

「ええと、田辺さん。経歴については拝見いたしました。素晴らしいですね。ただ、少し気になる点がございまして…」

面接官の一人が、ファイルに目を落としたまま、ゆっくりと口を開いた。田辺の心臓が、ドクリと音を立てる。まさか、あの件だろうか。あの、どうしようもなく、自分でも理解できない衝動に駆られた、あの出来事。

「あの…具体的には、どのような点でしょうか？」

田辺は、声が上ずるのを抑えながら尋ねた。面接官は、もう一方の面接官と視線を交わし、それから田辺に向き直った。

「ええ、その…履歴書の自己PR欄に、『ストレス解消法』という項目がございますね。そこに…『趣味』として、大変ユニークなものが記載されておりまして…」

面接官の言葉に、田辺の顔にみるみる血の気が引いた。そう、あの時のことだ。数週間前、仕事の締め切りに追われ、連日連夜の残業で心身ともに限界を迎えていた。どうしようもない疲労感と、それに伴う妙な高揚感。ふと、部屋の隅に転がっていた、あの「おもちゃ」が目に入った。

「…ええ、まあ…」

言葉を濁す田辺に、面接官はさらに踏み込んだ。

「『バイブを使った一人遊び』と…」

その言葉を聞いた瞬間、田辺は思考停止した。まさか、それを真剣な面接の場で、こんなにもあっさりと読まれるとは思ってもいなかった。あの時、追い詰められた自分は、一体何を考えていたのだろう。ただ、その場で、このままではいけない、何か打破しなければ、という焦燥感だけがあった。そして、その「何か」として、なぜか、あの「おもちゃ」が選ばれてしまったのだ。

「あの、それは、その…」

言葉を探す田辺の様子を見て、面接官たちは表情を崩さなかった。むしろ、興味深げな、あるいは、どこか楽しんでいるような、そんな視線が田辺に突き刺さる。

「具体的には、どのような『バイブ』をお使いになられるのですか？例えば、ローターではなく、電マでもなく、おっしゃる通り『バイブ』だと…」

「あ、いや…それは…」

田辺は、さらに混乱した。なぜ、そこまで詳しく聞かれなければならないのか。これは、面接のはずだ。仕事の話をする場のはずだ。しかし、目の前の面接官たちは、まるで、これから語られるであろう、田辺の「趣味」に、熱狂的な期待を寄せているかのようだ。

「あの、その…家庭用の、その…」

言葉にならない言葉が、田辺の口から漏れる。面接官の一人が、ゆっくりと、しかし確かな調子で言った。

「なるほど。家庭用ですね。しかし、その『一人遊び』が、どのようにストレス解消に繋がるのか、もう少し詳しくお聞かせいただけますか？」

「それは…その、身体が…」

田辺は、言葉に詰まった。身体が、どうにかなってしまうのだ。あの、独特の振動が、全身を駆け巡り、脳を痺れさせ、感覚を研ぎ澄ませる。そして、その先に訪れる、一瞬の解放感。それは、まるで、自分自身をリセットするかのような、強烈な体験だった。

「身体が、どのように、なるのですか？見ていると、興奮するという…そういうことでしょうか？」

面接官の言葉に、田辺は思わず顔を上げた。彼の視線には、先ほどまでの無表情はなく、むしろ、ギラギラとした、探求心のようなものが宿っていた。

「え…？見ていると…？」

「ええ。履歴書には『見られると興奮する』とも、記載されておりましたので。」

田辺は、愕然とした。いつ、そんなことを書いただろうか。いや、もしかしたら、あの時の混乱した頭で、無意識のうちに、そんな衝動を書き連ねてしまったのかもしれない。

「あの、それは、その…」

「田辺さん。あなたは、もしかしたら、我々が探していた人材なのかもしれません。」

面接官が、突然、身を乗り出した。その目は、田辺の奥底を見透かすかのように、鋭く光っていた。

「我々は、新しいエンターテイメントの形を模索しております。常識に囚われず、あらゆる欲望を解放できるような、そんなコンテンツです。」

「エンターテイメント…？」

「ええ。そして、あなたのそのユニークな『趣味』は、まさしく、我々が求めているものなのです。」

面接官は、さらに続けた。

「想像してみてください。面接の場。緊張感が高まる中、あなたが、その『バイブ』を手に取り…」

面接官は、想像を絶する、さらに踏み込んだ状況を語り始めた。田辺は、その言葉に、恐怖と、そして、微かな好奇心のようなものを感じていた。

「…そして、その姿を、我々が見ている。その状況で、あなたは、どのように『一人遊び』をなさるのか。さらに、その『一人遊び』が、我々に見られることで、どのように変化していくのか…」

面接官の言葉は、止まらない。まるで、一本の映画の脚本を読み上げるかのように、淀みなく、そして、熱を帯びていく。田辺は、その言葉に、身動き一つできず、ただ、その場に立ち尽くしていた。

「…さらに、その『一人遊び』が、我々との『ガチハメ』へと発展していく…そんな展開は、いかがでしょうか？」

「ガチハメ…！？」

田辺は、思わず叫んだ。面接室の空気が、一気に熱を帯びた。面接官たちの顔には、期待と、そして、制御不能な欲望が滲み出ていた。

「そうです。我々は、そんな、常識を超えた、生々しい欲望を、そのまま映像化したいのです。そして、あなたは、その中心となる、新しいスターとなるのです。」

面接官は、畳みかけるように続けた。

「あなたのその『変態性』は、もはや隠すべきものではない。むしろ、それを武器に、世界を魅了するのです。我々の会社で、あなたは、『変態女優』として、爆誕するのです！」

「変態女優…？」

田辺は、自分の口から、その言葉が発せられたことに、まだ信じられない気持ちでいた。数時間前まで、ただのストレスに悩む、どこにでもいる会社員だった自分が、今、こんな言葉を口にしている。

「そうですよ。さあ、田辺さん。あなたの、その秘められた才能を、ここで、解き放つのです。」

面接官は、田辺の手を掴み、立ち上がらせた。その手は、驚くほど熱かった。

「さあ、まずは、あなたの『バイブ』を見せてください。そして、我々に見られることで、あなたが、どのように『興奮』していくのか…」

面接室のドアが、ゆっくりと開いた。そこには、先ほどまでとは比べ物にならないほど、鮮烈な光が満ちていた。田辺は、その光に向かって、意を決して、足を踏み出した。

「…わかりました。」

その言葉は、もはや、断りきれるものではなかった。あるいは、心のどこかで、それを求めていたのかもしれない。

面接室の熱気は、さらに高まり、そして、それは、やがて、世界を震撼させる「変態女優」の誕生の瞬間となった。田辺の、予測不能な、しかし、紛れもない、新しい人生が、今、幕を開けたのだ。