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**湯けむり裏レポート**

「温泉レポート、してみませんか？」

パソコンの画面に映る、編集長からのメッセージ。旅行雑誌『湯けむり紀行』の読者参加企画だ。売れ行きが伸び悩んでいるらしく、起死回生の一手として、読者モデルを使った体験レポートを強化するという。

正直、乗り気ではなかった。僕はライターの端くれ。硬派な紀行文や社会問題に斬り込む記事を書いてきた自負がある。読者モデルをアテンドして温泉を巡り、面白おかしく体験談を書くなんて、まるで自分のキャリアを汚す行為のように思えた。

しかし、現実は厳しい。依頼は減り、貯金は底をつきかけている。プライドを捨て、編集長の提案を受け入れるしかなかった。

「条件は？」

すぐに返信すると、すぐに返事が来た。

「若い女性、できればセレブな奥様。容姿端麗であれば尚良し。体験レポートだけでなく、写真もたくさん撮りたいからね」

編集長の言葉に、嫌悪感が募る。結局、そういうことか。

数日後、編集部から読者モデルのリストが送られてきた。杉並区在住の浅倉愛さん（24歳）、アパレル勤務。横浜在住の伊東真緒さん（25歳）、税理士の妻。写真を見ると、二人とも確かに美人だった。

僕は、浅倉さんと伊東さんにそれぞれメールを送った。温泉レポート企画の説明と、簡単な自己紹介。すぐに二人から返信があり、日程調整の結果、まずは浅倉さんと湯河原に行くことになった。

待ち合わせ場所の湯河原駅に着くと、浅倉さんはすぐに僕を見つけた。すらりとした長身に、白いワンピースがよく似合う。雑誌で見た写真よりもずっと綺麗だった。

「浅倉さん、ですよね？今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。温泉、楽しみにしてきました！」

浅倉さんの笑顔は眩しく、屈託がなかった。僕は、少しだけ気が楽になった。

湯河原の温泉街は、どこか懐かしい雰囲気が漂っていた。僕たちは、まず老舗旅館『 riverside view yugawara 』にチェックインした。川沿いに佇むその旅館は、風情があり、露天風呂からの眺めは絶景だった。

夕食は、地元の食材を使った会席料理だった。新鮮な魚介類や山の幸が並び、目にも舌にも美味しい。浅倉さんは、料理が出るたびに「美味しい！」と目を輝かせた。

「お酒、飲めますか？」

僕は、浅倉さんに尋ねた。編集長から、レポートを盛り上げるために、少しお酒を勧めるように言われていた。

「飲みます！日本酒が好きなんです」

浅倉さんは、嬉しそうに答えた。僕は、旅館のおすすめの日本酒を注文した。

グラスを傾けながら、僕たちは色々な話をした。浅倉さんの仕事の話、趣味の話、好きな音楽の話。彼女は頭の回転が速く、ユーモアがあり、話していてとても楽しかった。

日本酒が進むにつれて、浅倉さんの頬はほんのりと赤らみ、饒舌になっていった。

「実は…私、結構ドSなんです」

突然、浅倉さんがそう言った。僕は、驚いて彼女の顔を見た。

「え…ドS、ですか？」

「はい。普段は隠してるんですけど、お酒が入るとつい…」

浅倉さんは、いたずらっぽい笑みを浮かべた。僕は、彼女の意外な一面に戸惑いを隠せなかった。

その夜、僕たちは大浴場と露天風呂を満喫した。湯上がりの浅倉さんは、さらに色っぽく見えた。

部屋に戻ってからも、僕たちはしばらく話し込んだ。浅倉さんは、さらに日本酒を飲み、どんどん饒舌になっていった。

「あの…実は、お願いがあるんですけど…」

浅倉さんは、上目遣いに僕を見つめた。僕は、彼女の瞳に吸い込まれそうになった。

「な、何でしょう…？」

「私を…もっと酔わせてくれませんか？」

浅倉さんの言葉に、僕は息を飲んだ。僕は、彼女のドSな本性に翻弄され、抗うことができなかった。

翌日、僕は湯河原から横浜へ向かった。次は、伊東真緒さんとの温泉レポートだ。

伊東さんは、浅倉さんとはまた違ったタイプの美人だった。落ち着いた雰囲気で、上品な物腰。高級ブランドの服を身につけ、アクセサリーもさりげなく輝いている。まさに、セレブ妻という感じだった。

伊東さんと向かったのは、伊東温泉にある高級旅館『 横浜リゾート 』だった。海を見下ろす高台に建つその旅館は、豪華絢爛で、まるで別世界だった。

夕食は、フレンチのフルコースだった。伊東さんは、ワインを飲みながら、優雅に食事を楽しんでいた。

「お仕事は何をされているんですか？」

伊東さんは、僕に尋ねた。僕は、ライターであることを伝え、最近の仕事について話した。

「ライターさん、素敵ですね。色々な場所に行けて、色々な人に会える。羨ましいです」

伊東さんは、そう言って微笑んだ。僕は、彼女の言葉に少しだけ心が軽くなった。

夕食後、僕たちはバーに行った。伊東さんは、カクテルを飲みながら、自分のことについて語り始めた。

「私は、結婚してからはずっと専業主婦なんです。夫は仕事が忙しくて、なかなか構ってくれない。だから、毎日退屈で…」

伊東さんの言葉には、どこか寂しさが漂っていた。僕は、彼女の気持ちが痛いほど分かった。

お酒が進むにつれて、伊東さんはハイテンションになっていった。普段は抑えている感情が、解き放たれたようだった。

「ねえ、もっと飲みましょうよ！朝まで付き合ってくれますか？」

伊東さんは、僕の腕に絡みつき、甘えるように言った。僕は、彼女の魅力に抗うことができなかった。

その夜、僕は伊東さんと朝まで飲み明かした。彼女は、普段の鬱憤を晴らすかのように、笑い、歌い、踊った。

翌朝、僕は伊東温泉を後にした。心身ともに疲れ果てていたが、どこか満たされた気持ちだった。

僕は、編集部に温泉レポートを提出した。編集長は、レポートの内容に満足し、僕にボーナスをくれた。

しかし、僕は複雑な気持ちだった。読者モデルをアテンドして温泉を巡り、体験談を書く。それは、僕の望んだ仕事ではなかった。

それでも、僕はライターとして生きていくために、この仕事を続けるしかない。それが、現実なのだから。

僕は、パソコンに向かい、次の温泉レポートの企画を考え始めた。今度は、どんな女性と、どんな温泉に出会えるだろうか。

僕は、期待と不安が入り混じった感情を抱きながら、キーボードを叩き始めた。