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夏の陽射しが、窓辺に置かれた旅行鞄に反射してキラキラと輝いていた。十七歳になったばかりの正和は、ソファに腰掛け、その光を無意識に目で追っていた。明日は、父・登と、父の新しい妻・ほのかとの家族旅行だ。地元の温泉宿「月の湯」に一泊する予定で、正和は旅行鞄に詰め込まれた新しい水着を、何度も触ってはため息をついていた。

ほのか。二十六歳。父の会社の部下で、正和の母代わりになる人だ。初めて会った時、正和は息を呑んだ。すらりとした体格、艶やかな黒髪、そして何よりも、優しく笑うその表情。正和は、これまでの人生で、こんなにも美しい女性を身近に感じたことがなかった。

父は、母が亡くなってからずっと一人で正和を育ててきた。仕事に明け暮れ、疲れた顔をしている父の姿を見て、正和は早く自立しなければならないと、心に決めていた。だから、父の再婚には複雑な気持ちを抱きながらも、素直に祝福しようと思っていた。しかし、ほのかの美しさは、正和の心に、別の感情を芽生えさせていた。

それは、罪悪感と混ざり合った、抑えきれない欲望だった。

昼間は高校の授業、放課後はアルバイト。そんな毎日の中で、正和はほのかの事を想像しては、顔が熱くなるのを感じていた。ほのかが微笑む姿、料理をする姿、そして、シャワーを浴びる姿…。想像はどんどんエスカレートし、正和は何度も自慰行為に及んだ。それは、現実では絶対に起こりえない、禁断の行為だった。

旅行当日。車は、夏の太陽を浴びて眩しいほどに輝いていた。父は運転席、ほのかは助手席、そして正和は後部座席に座った。静かな車内。正和は、ほのかの香水の匂いを嗅ぎつけ、胸の高鳴りを抑えきれなかった。

温泉宿「月の湯」は、古風な佇まいの美しい宿だった。部屋は広々としていて、窓からは緑豊かな山々が望めた。夕食は、地元の新鮮な食材を使った豪華な料理で、正和は緊張しながらも、箸を進めていた。

しかし、楽しい時間は長くは続かなかった。夕食後、父は会社の緊急連絡を受け、急遽仕事に戻らなければならなくなった。ほのかは、寂しそうに父の背中を見送った。そして、正和と二人きりになった。

静まり返った部屋。二人の間に、気まずい沈黙が流れた。正和は、自分の心臓の鼓動が耳元で大きく響いているのがわかった。

「…お父さんは、本当に大変な仕事だね」

ほのかが、小さく呟いた。その声は、どこか弱々しく、正和の胸を締めつけた。

「…うん」

正和は、言葉を詰まらせながら答えた。

その後、ほのかは浴衣に着替え、一人で温泉へ向かった。正和は、その姿を見送った後、部屋の中を歩き回った。自分の行動に、苛立ちと罪悪感が押し寄せた。

だが、同時に、抑えきれない欲望も、彼の心を支配し始めていた。

勇気を振り絞って、正和は浴衣を着て温泉へ向かった。そして、ほのかが一人で入っている露天風呂を見つけ、躊躇した挙句、中へ入った。

ほのかは、驚いて目を丸くした。

「…正和くん？」

ほのかの声は、震えていた。

正和は何も言えず、ただほのかを見つめていた。

しばらくの沈黙の後、ほのかは、静かに目を閉じた。

その瞬間、正和は、自分が何をすべきか、理解した。

その夜、温泉の湯気が立ち上る露天風呂で、二人は抱き合った。

それは、背徳と快楽が混ざり合った、忘れられない夜だった。


翌日、父が迎えに来たとき、二人の顔には、罪悪感と、不思議な満足感とが入り混じっていた。何も言わずに、三人は静かに車に乗り込んだ。

夏の太陽は、相変わらず強く輝いていた。しかし、正和の心の中は、もう以前とは違っていた。  彼の夏は、永遠に記憶の深くに刻まれた、禁断の夏の思い出となった。  その記憶は、彼を大人へと成長させていく力になるのか、それとも、彼を苦しめる呪縛となるのか、それはまだ誰も分からなかった。