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## 99%の真実

風が初夏の匂いを運んでくる。キャンパスの木々も萌え始めたばかりで、生命力に満ち溢れていた。そんな中、俺、古谷啓介は、人並み外れた使命感を胸に、今日もこの街を彷徨っていた。その使命とは、巷で囁かれる「全国の女子大生の99パーセントはヤリマン」という衝撃的な噂の真偽を、己の目で確かめること。

「いやー、それにしてもすごいね、この噂。」

相棒の健太は、スマートフォンの画面を眺めながら、呑気にコーヒーを啜っている。彼は純粋な好奇心でこのプロジェクトに付き合ってくれているが、俺の目的はもっと切実だ。人生という名の長い旅路で、一度でいい、心から満たされるような、熱く激しい経験をしたかった。そして、その鍵が、あのキラキラした瞳の奥に隠されていると、俺は信じていた。

「99%って、ほとんどじゃん。もし本当なら、俺たちの人生、これからどうなるんだろうな。」

俺は、キラキラとした女子大生たちの群れに目をやりながら、健太に答えた。彼女たちの屈託のない笑顔、軽やかな足取り、そして時折風になびく髪。それら全てが、俺の心を掻き立てる。

「でもさ、啓介。もし本当に99%だったら、それはもう『女子大生』っていうカテゴリ自体がそうなるってことじゃない？もはや、それが『普通』ってことになりかねないよ。」

健太の言葉に、俺は思考を巡らせる。もしそうなら、俺が探している「真実」は、あまりにも身近すぎて、見過ごしてしまうような場所にあるのかもしれない。

「だからこそ、俺たちは徹底的に検証する必要があるんだ。街角で、カフェで、そして時には、彼女たちが最もリラックスしているであろう状況で。」

俺の言葉に、健太は少しだけ顔色を変えた。彼は、俺の目的が、単なる好奇心だけではないことを理解している。

「で、今日のターゲットは？」

「あそこ。就活の面接に向かってるっぽい二人組。あの雰囲気、まさに獲物だろ。」

俺は、少し離れた場所で、真剣な面持ちで地図を広げている二人組を指差した。片方は、きっちりとしたリクルートスーツに身を包み、もう一人は、少し崩した感じだが、やはり真剣さが伺える。

「お、いいね。あの真面目そうな顔の下に、どんな顔が隠れてるか、見ものだ。」

健太は、にやりと笑った。俺たちは、彼女たちとは少し離れた場所から、彼女たちの動きを観察した。面接時間が迫っているのだろう、二人は早足で歩き始めた。

「よし、行くぞ。」

俺は、健太に合図を送ると、彼女たちに近づいていった。まずは、自然な形で話しかけることが肝心だ。

「あの、すみません。もしよかったら、少しだけお時間いただけますか？」

俺の声に、二人は顔を上げた。片方の女子大生、髪を綺麗にまとめた、いわゆる「優等生」タイプの子が、少し警戒したような表情で俺を見た。もう一人、少し砕けた雰囲気の子は、興味深げな目で俺をじっと見つめている。

「あの、私、今、就活の面接で…」

優等生タイプの子が、遠慮がちに言った。

「そうですよね。でも、ほんの少しでいいんです。ちょっと、困っていて。」

俺は、必死に「困った顔」を演じた。健太も、さりげなく俺の隣に立ち、心配そうな顔を装う。

「困ってる？どうしたの？」

砕けた雰囲気の子が、興味津々に俺に話しかけてきた。これが、俺たちの「作戦」の第一段階だ。彼女の警戒心を解き、俺への興味を引きつける。

「実は、どうしても会いたい人がいるんですが、その人が、この辺りで待ち合わせをしているはずなんです。でも、どこにいるのか、全く分からなくて。」

俺は、嘘を紡ぎ出した。健太は、俺の言葉に合わせるように、周囲をきょろきょろと見回す。

「へぇ、どんな人なの？」

砕けた女子大生が、さらに興味深そうに尋ねてきた。俺は、心の中でガッツポーズをした。彼女は、俺の「物語」に乗り始めていた。

「それが、なんですけど…すごく、綺麗で、可愛くて、でも、ちょっとミステリアスな人で…」

俺は、敢えて抽象的な表現を使った。具体的な描写は、彼女の想像力を掻き立てる。

「ふーん、どんな人なんだろうね。」

優等生タイプの子も、いつの間にか興味を引かれていたようだ。彼女の表情が、少しだけ和らいでいる。

「もしよかったら、一緒に探してもらえませんか？もし見かけたら、教えてほしいんです。」

俺は、彼女たちの「優しさ」に訴えかけた。そして、ここで「ボディタッチ」のタイミングを計る。

「あの…ちょっと、肩、貸してもらってもいいですか？」

俺は、優等生タイプの子の肩に、そっと手を置いた。彼女は、一瞬驚いた表情を見せたが、拒否する様子はなかった。むしろ、少しだけ体勢を安定させるように、俺の手に寄りかかってくる。

「うん、いいよ。どんな人なんだろうね、その人。」

砕けた女子大生が、さらに踏み込んできた。彼女は、俺の「物語」の主人公に、自分自身を重ね合わせているのかもしれない。

「もしかしたら、君たちみたいな、明るくて、可愛い子かもしれないですよ。」

俺は、彼女たちの顔を覗き込むようにして言った。彼女たちの顔が、ほんのり赤くなるのが見て取れた。

「えー、私達みたいな？」

砕けた女子大生は、嬉しそうに笑った。優等生タイプの子も、照れたような笑顔を見せる。

「ありがとうございます。もし、見かけたら、すぐに教えてくださいね。お礼に、美味しいものでもおごりますから。」

俺は、自然な流れで、連絡先を聞き出した。彼女たちは、快く交換に応じてくれた。

「じゃあ、また連絡しますね。」

俺は、彼女たちに笑顔で手を振り、健太と共にその場を離れた。

「どうだ、啓介。今日の調子は。」

健太が、得意げに言った。

「悪くない。でも、まだまだこれからだ。99%という数字には、まだまだ遠い。」

俺は、次なるターゲットを探すべく、再び街を歩き始めた。

その後も、俺たちは様々な場所で、様々な女子大生に声をかけた。カフェで、ショッピングモールで、そして時には、大学の近くの公園で。就活に励む彼女たち、友人との待ち合わせをする彼女たち、そして、一人で物思いにふけっている彼女たち。

声をかけるたびに、俺たちの「作戦」は巧妙になっていった。ある時は、道に迷ったと嘘をつき、彼女たちの地図を覗き込みながら、自然にボディタッチをする。ある時は、彼女たちが持っている本について話しかけ、共通の話題を見つけ出す。そして、彼女たちの興味を惹きつけるために、時には、少しばかり大胆な冗談を言ってみることもあった。

「ちょっと、そのバッグ、可愛いね。どこのブランド？」

「え、ありがとうございます！〇〇です。」

「へぇ、センスいいじゃん。俺も、そういうの、詳しいんだ。もしかしたら、趣味合うかもね？」

俺は、彼女たちの反応を注意深く観察する。彼女たちが、少しでも興味を示せば、そこから会話を広げ、彼女たちのガードを少しずつ崩していく。

「あのさ、啓介。本当に、99%もいるのかな、そういう子。」

健太が、ふと呟いた。俺たちは、あるカフェのテラス席で、次なるターゲットを観察していた。

「さあな。でも、今日一日で、少なくとも5人以上は、俺の誘いに乗ってくれそうだったぞ。」

俺は、手帳に記録した彼女たちの名前を眺めながら言った。彼女たちの名前は、俺の「調査」の証だった。

「でも、なんだか、虚しいっていうか…」

健太の言葉に、俺は少しだけ眉をひそめた。

「虚しい？なんでだ？」

「だって、みんな、最初から、どこかでそういうのを、期待してるんじゃないかって、思えてきちゃって。俺たちの声かけなんて、ただのきっかけでしかないんじゃないかって。」

健太の言葉は、核心を突いているのかもしれない。彼女たちの「99%」という数字は、もしかしたら、彼女たちの内面に、あるいは、この時代に、すでに宿っているものなのかもしれない。

「でも、それこそが、俺たちが証明すべきことなんじゃないか？彼女たちの内面に、すでにそういった「期待」が、あるいは「欲求」があるということを。」

俺は、健太を励ますように言った。しかし、俺自身の心の中にも、小さな疑問が芽生えていた。

ある日、俺たちは、大学の近くにある、少し落ち着いた雰囲気のバーにいた。そこは、静かに会話を楽しむ人々で賑わっていた。俺たちは、カウンター席に座り、グラスを傾けていた。

「今日の収穫は？」

健太が、俺に尋ねた。

「まあまあかな。でも、今日は、ちょっと違うアプローチをしてみようかと思って。」

俺は、バーテンダーに目配せをした。彼は、俺たちの意図を察したように、少しだけ合図を返してきた。

「あの、すみません。」

俺は、隣に座っていた、一人の女子大生に声をかけた。彼女は、一人で静かにカクテルを飲んでいた。清楚な雰囲気だが、どこか影のある女性だった。

「はい？」

彼女は、穏やかな声で答えた。

「あの、あなたも、一人で飲んでるんですか？もしよかったら、少しお話しませんか？」

俺は、優しく語りかけた。彼女は、少し戸惑った表情を見せたが、すぐに微笑んでくれた。

「ええ、一人で。でも、お話、嬉しいです。」

俺たちは、自然に会話を始めた。彼女の名前は、美咲といった。大学で、文学を専攻しているらしい。俺たちは、共通の趣味や、好きな本について語り合った。会話は、弾み、俺たちは、互いの距離を縮めていった。

「あの、啓介さん。私、ちょっと、話したいことがあるんですけど。」

美咲が、少し真剣な表情で言った。

「え、何？どうしたの？」

俺は、不安になった。もしかしたら、彼女は、俺たちの「噂」のことを、知っているのかもしれない。

「私、実は、ずっと、誰かに、話を聞いてほしかったんです。色々な、悩みとか、寂しさとか…」

美咲は、言葉を選びながら、ゆっくりと話し始めた。彼女は、大学生活で抱える葛藤、将来への不安、そして、人間関係での寂しさを、俺に打ち明けてくれた。

俺は、静かに彼女の話を聞いた。彼女の言葉の一つ一つに、真摯に耳を傾け、共感を示した。俺が「99%」という噂を検証するために、彼女たちに声をかけていたという事実を、一時的に忘れていた。

「ありがとう、啓介さん。話を聞いてもらえて、本当に楽になりました。」

美咲は、涙ぐみながら、俺に微笑みかけた。その笑顔は、俺が今まで見てきた、どんなキラキラした笑顔よりも、ずっと輝いて見えた。

「いいんだよ。困ったことがあったら、いつでも言ってね。」

俺は、美咲の手をそっと握った。彼女の手は、温かかった。

その夜、俺は、健太と共に、ホテルの部屋にいた。俺たちの「検証」は、まだ終わっていない。しかし、俺の心の中には、以前とは違う、複雑な感情が渦巻いていた。

「啓介。今日の美咲さんの話、どう思った？」

健太が、静かに尋ねた。

「彼女は、寂しかったんだ。ただ、それだけ、なんだと思う。」

俺は、窓の外の夜景を見ながら答えた。99%という数字は、もしかしたら、彼女たちの「期待」や「欲求」の現れなのかもしれない。しかし、その奥には、もっと人間的な、感情的な、そして、純粋な部分が隠されているのかもしれない。

「俺たち、もしかしたら、彼女たちの、そういう部分を、見落としてるのかもな。」

健太の言葉が、俺の心に響いた。俺たちは、彼女たちの「可愛さ」や「魅力」という表面的な部分にばかり目を奪われ、その奥にある、繊細な感情や、深い悩みを、見ようとしていなかったのかもしれない。

「でも、啓介。俺は、それでも、あの噂の真偽を、突き止めたいんだ。」

健太の言葉に、俺は頷いた。俺たちの「検証」は、まだ終わっていない。そして、俺はこの「99%」という謎めいた数字の真実を、必ず突き止めてみせる。それが、俺たちがこの街で、彼女たちと出会う理由だから。

しかし、その真実が、俺が想像していたような、単純なものではないことを、俺は、もう予感していた。彼女たちの「99%」という数字は、もしかしたら、俺たちの「欲望」や「期待」が、彼女たちに投影された、一種の「幻想」なのかもしれない。

俺は、グラスに残ったウィスキーを、ゆっくりと飲み干した。窓の外は、街の明かりが、星のように輝いていた。その光の中に、俺たちは、まだ見ぬ「真実」を追い求めていく。99%の女子大生たち。その謎は、果てしなく深かった。