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## 田舎娘、東京で咲く（そして散る？）

あんずは、生まれた時からこの村で育った。空はどこまでも青く、空気は澄んでいて、畑を吹き抜ける風はいつも優しい。学校が終われば友達と野山を駆け回り、夏は川で魚を追いかけ、冬は雪だるまを作った。そんな、ごく普通の、しかしあんずにとってはかけがえのない田舎での毎日が、彼女は大好きだった。

そんなあんずのもとに、ある日、村では珍しい「東京からのスカウト」がやってきた。キラキラした都会の香りを纏った、いかにも「できる女」といった風情の女性。彼女はあんずに、高給のアルバイトの話を持ちかけた。「簡単なモデルの仕事よ。あなたみたいな可愛らしい子なら、すぐに人気者になれるわ。しかも、お給料もすごくいいのよ？」

田舎暮らしは好きだったけれど、新しい刺激や、自分の力で稼いだお金で家族を助けたいという気持ちも、あんずにはあった。そして何より、キラキラした世界への憧れ。スカウトの女性の言葉は、そんなあんずの心を巧みにくすぐった。数日後、あんずは期待と不安を胸に、東京行きの夜行バスに乗り込んだ。

東京の夜景は、あんずが想像していた以上に眩しかった。ネオンサインが乱舞し、高層ビルが空を突く。スカウトの女性、ミドリさんは、そんなあんずを高級ホテルのロビーに案内した。部屋に通されると、そこにはミドリさん以外にも、数人の女性がいた。皆、あんずと同じように、この「アルバイト」のために集められたらしい。

「さて、あんずちゃん。まずは、お仕事の説明をしっかりしないとね」

ミドリさんは、にっこりと微笑んだ。その笑顔は、バスの中で見た時よりも少しだけ、冷たく見えた。

「えっと、モデルの仕事って…」

あんずが不安げに尋ねると、ミドリさんはゆっくりと、しかしはっきりと告げた。

「あなたにやっていただくのは、とても特別なお仕事なの。金持ちの社長さんたちを相手に、おもてなしをしていただくのよ」

「おもてなし…ですか？」

「そう。社長さんたちは、疲れているから、癒してあげてほしいの。もちろん、あなたにも、これまでにないくらいのお金が稼げるわ。どう？ 魅力的でしょう？」

あんずは、ミドリさんの言葉の意味をすぐに理解できなかった。しかし、彼女の表情が、次第に曇っていくのを感じた。

「あの…具体的には、どういう…」

あんずが言葉を詰まらせると、ミドリさんはふっと息をついた。

「ま、細かいことは、これからじっくり教えてあげるわ。まずは、練習をしてみましょうか」

そう言って、ミドリさんは部屋のドアを開けた。そこに立っていたのは、屈強な男だった。男は、ミドリさんの合図で、ゆっくりとあんずに近づいてきた。

「これは、練習よ。社長さんを相手にする前に、ちゃんとできるようにね」

ミドリさんは、まるで他人事のように言った。あんずは、男の無言の圧力に、体を硬くした。田舎で育ったあんずは、このような経験をしたことがない。ただただ、恐怖と混乱で頭がいっぱいだった。

男は、あんずの腕を掴み、無理やり部屋の奥へと引きずり込もうとした。

「いや！ やめてください！」

あんずは必死に抵抗した。しかし、男の力はあんずの想像を遥かに超えていた。ミドリさんは、そんなあんずの様子を、ただ静かに見ているだけだった。

「抵抗しても無駄よ。あなたはもう、ここにいるんだから」

ミドリさんの声が、あんずの耳に冷たく響いた。あんずは、まるで夢の中にいるかのような、現実感のない恐怖に襲われた。田舎の空、優しい風、友達との笑い声。それらが、遠い遠い記憶のように思えた。

（私、どうしちゃったんだろう…）

あんずの心に、絶望的な思いが駆け巡った。東京で掴もうとしたキラキラした未来は、あまりにも歪んだ形をして、彼女の前に現れたのだ。

男は、あんずの抵抗を振り切り、部屋に押し込んだ。ドアが閉まる音が、あんずの耳に重く響く。彼女の、田舎娘の、純粋な夢は、この東京の夜で、静かに、しかし確実に、踏みつけられていくのだった。

やがて、部屋の中から、かすかな悲鳴とも、うめき声ともつかない声が漏れ聞こえてきた。ミドリさんは、その声を聞きながら、ふと窓の外に目をやった。遥か遠く、田舎の故郷の空が、静かに広がっているような気がした。しかし、それはもう、あんずが知っている空ではなかった。

（この後、あんずはどうなってしまうのか…）

読者は、それぞれの想像を巡らせるだろう。東京の夜は、あんずのような少女たちにとって、希望にも、絶望にもなり得る、残酷な場所なのかもしれない。そして、この物語の結末は、あんずの選択、あるいは、彼女を取り巻く大人たちの思惑によって、大きく変わっていくのだろう。

しかし、現時点では、あんずの未来は、暗闇の中に沈みかけていた。田舎の、あの澄んだ空の下で、無邪気に笑っていた少女の面影は、もうどこにも見当たらない。彼女は、この夜を境に、二度とあの頃の自分には戻れないのかもしれない。東京という街は、そのまぶしさの裏側で、あまりにも多くのものを奪い去っていくのだ。