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■ 禁断の果実、甘い吐息

夜の帳が降り、都会の喧騒が遠ざかるにつれて、私の心臓は不規則なリズムを刻み始めた。今日、私は「ファレノ」のBOTANページに飛んだ。その目的はただ一つ。東雲怜弥（シノノメ・レイヤ）の新作、まさに「おかわり作品」と呼ぶにふさわしい、ピッカピカの新作のPR動画を観るためだ。

「シノノメ推しじゃなくとも、一発で彼のトリコになりますよね。」

心の中で、そんな言葉がリフレインする。それは、この新作のキャッチコピーであり、私自身もその魔法にかかることを予感させる呪文のようだった。

動画は、静寂の中から始まった。夜景を背にした東雲怜弥。その瞳は、暗闇に溶け込む星のように、静かに、しかし力強く輝いていた。一瞬、カメラが彼にフォーカスしただけで、私の呼吸は浅くなった。鏡に映った自分を見つめるかのように、彼はゆっくりとこちらに視線を向けた。その視線は、まるで私の心の奥底を見透かしているかのようで、全身に鳥肌が立った。

「ねっ！！」

思わず、誰かに同意を求めるように呟いてしまった。画面越しにも伝わる彼の魅力。それは、単なる美しさではなく、内側から溢れ出すような、抗いがたい色香だった。

そして、相手役の氷堂りりあが登場した。彼女は、東雲怜弥と目が合った瞬間、まるで磁石に引き寄せられる鉄粉のように、彼の存在に囚われた。その顔に浮かんだ、純粋な驚きと、隠しきれないときめき。りりあちゃんの、あの表情。それを観て、私は確信した。これは、私だけの物語ではない。観る者すべてが、りりあちゃんと同じように、東雲怜弥に心を奪われるのだと。

「ついさっき出会ったカレ＝シノノメ君なんだけど、りりあチャン＝これを観ている貴女は、もうすっかりカレに魅せられてドキドキの様子です。」

テキストの言葉が、動画の映像と重なり合う。りりあちゃんは、まるで私自身だった。初めて会ったはずなのに、なぜか、ずっと前から知っているような、そんな錯覚さえ覚える。彼の声、彼の仕草、彼の視線。そのすべてが、私の心を掴んで離さない。

「リアル緊張感で、心臓がバクバクして、知らないうちにときめいているのが、貴女は、自分でもわかります。」

動画を観ている間、私の心臓もまた、動画の中のりりあちゃんと同じように、激しく鼓動していた。早鐘のように鳴り響く鼓動は、私の知らないところで、私自身をときめかせていることを教えてくれる。それは、まるで禁断の果実を前にした時の、背徳感にも似た感覚だった。

「恥ずかしいけど、ASOKOがジュッと疼いて、いつの間にか湿っているのに気づいたりもします。」

テキストは、さらに核心に迫っていく。恥ずかしさ。それは、自分が普段は決して表に出さない、隠された本能の囁き。動画が進むにつれて、りりあちゃんの表情は、より一層、甘く、危ういものへと変わっていく。そして、私もまた、それに呼応するように、体の奥底から熱がこみ上げてくるのを感じていた。

「もう、こうなれば、あとは「カレ」に身をまかせるしかない、どうにでもしてッ！って感じしかありません。」

この言葉が、私の心を突き動かした。抗うことのできない衝動。それは、理性を超えた、純粋な欲望だった。動画の中のりりあちゃんは、まるで私に語りかけているかのようだった。画面の中の東雲怜弥に、すべてを委ねてしまいたい。その思いは、抑えきれない奔流となって、私を呑み込もうとしていた。

「で、実際、貴女はどうにでもされてしまうわけなんです。」

この一文に、私は観念した。そう、私は、もうどうにでもされてしまうのだ。東雲怜弥の、あの魔性の魅力に。彼は、私の知らない私を引き出してくれる。

「普段はそんなはしたないことはしない貴女なのに、いつの間にか、女上位で腰を振っている自分に気付いたりもします…。」

動画の終盤。りりあちゃんの表情は、もはや恍惚と混乱が入り混じった、陶酔の極みだった。そして、私自身の体もまた、まるで意思を持っているかのように、微かに震え始めた。普段の自分なら、絶対にありえない行動。しかし、東雲怜弥の前では、そんな常識や理性は、あっけなく崩れ去ってしまう。

映像がフェードアウトし、画面に映し出されたのは、純粋な暗闇。しかし、私の頭の中には、東雲怜弥の姿が鮮明に焼き付いていた。彼の声、彼の匂い、彼の吐息。すべてが、まだ私の五感を刺激している。

「100％東雲怜弥に溺れるこの新作、ご堪能くださいませ！」

最後の言葉が、静かに響いた。堪能する。そんな言葉で片付けられるものではない。これは、魂の奥底からの叫び。理性を失い、ただひたすらに、東雲怜弥という名の甘く危険な蜜に溺れていく。

私は、もう一度、動画を再生した。今度は、PR動画という枠を超えて、私自身の物語が始まる予感がした。東雲怜弥。彼が私に、どんな「おかわり」を見せてくれるのか。その答えを、私は、この身をもって確かめるのだ。そして、その過程で、私は、自分でも知らなかった自分に出会うのだろう。禁断の果実の甘い吐息に、私は、すでに身を委ねていた。