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■ ネットワークの誘惑

「最近の若い子は基本ネット恋愛。ネット恋愛を制せば余裕でヤリチンになります。」

居酒屋の片隅で、俺、アラフォーの田中は、目の前の若い二人組に説教を垂れていた。向かいに座る大学生らしき男二人は、一人はスマホをいじりながら生返事、もう一人は興味なさげにビールを呷っている。俺の隣に座っているのは、偶然隣り合わせたという、この店でバイトをしているという女子大生、サクラだ。大学生の二人組より、サクラの方が俺の話に耳を傾けているように見える。

「だろ？ネット恋愛ってのは、リアルとは違うんだよ。顔も見えない、声も聞けない。だからこそ、仕掛け次第でどうにでもなる。」

俺はフライドポテトを摘みながら、得意げに続けた。

「コツさえ掴めば、今回の娘たちとSEXなんて余裕です。少しだけコツを書いておきますね。」

俺はスマホを取り出し、メモ帳アプリを開いた。画面を指でなぞりながら、俺は「ネット恋愛四ヵ条」を読み上げた。

「第一条・少しの嘘はお互いを救う。」

「え、嘘ですか？」サクラが眉をひそめた。

「そう、嘘。もちろん、相手を傷つけるような嘘じゃない。例えば、『昔はモテてたんです』とか、『実は大学で〇〇を専攻してて、すごく頭がいいんです』とか。ちょっと盛るくらいは、相手の理想を刺激するんだよ。相手も、あなたとの未来に期待が持てるようになる。」

「でも、バレたら…」

「バレないように、ちゃんと整合性を取ればいいんだよ。ネットの世界は、証拠が残りにくい。証拠が残らないなら、それはもう真実になる。それに、相手だって嘘をついてるかもしれない。お互い様なんだ。」

俺はニヤリと笑った。

「第二条・最低1か月は下ネタ振らないで。」

「え、でも…」サクラがさらに戸惑った表情を見せる。

「焦るな、焦るな。初めから下ネタなんて、相手を引かせるだけだ。まずは、信頼関係を築く。共通の趣味の話をしたり、相手の好きなものを褒めたり。相手があなたに心を開いてくれたら、自然とそういう話もできるようになる。むしろ、焦らされた分、相手はあなたへの期待値が上がるんだ。」

「なるほど…」サクラは少し納得したように頷いた。

「第三条・常に優しく。連絡はマメに。」

「これは基本中の基本だろ？相手が疲れてるときは気遣う言葉をかけ、嬉しいことがあったら一緒に喜ぶ。そして、連絡は毎日。返信がなくても、最低でも『おはよう』『おやすみ』くらいは送る。相手は、あなたがいつも自分のことを想ってくれていると感じる。」

「それは、確かに嬉しいかも。」サクラが少し微笑んだ。

「第四条・メンヘラ化したらSEXチャンス。」

「え！？」サクラは目を丸くした。隣の大学生の二人組も、ついにこちらに顔を向けた。

「そう、メンヘラ化。相手があなたに依存してきたら、それはもうあなたのもの。不安で、あなたなしではいられなくなったとき、相手はあなたにすべてを委ねる。そのときが、SEXのチャンスだ。」

俺は、まるで魔法の呪文でも唱えるかのように、自信満々に語った。

「そして、最強の武器は話す声のトーンです。V中の僕の話し方を真似してみてください。マジで効果ありますから。」

俺は、声のトーンを少し低く、ゆっくりと、そして語尾を少し甘くして話してみた。

「ね？どう？これなら、相手もドキッとするだろ？この声のトーンで、優しく、そして少しだけ余裕のある話し方をすれば、相手はもうあなたの虜だ。ネット恋愛なんて、楽勝なんだよ。」

俺は、得意満面にビールをぐいっと飲み干した。隣の大学生の二人組は、顔を見合わせ、何やら小声で話している。サクラは、俺の話を真剣な顔で聞いていたが、その瞳の奥には、どこか迷いのようなものが宿っているように見えた。

「でも、田中さん。そんなにうまくいくものなんですか？」サクラが、静かに問いかけた。

「うまくいくさ。俺が保証する。俺はもう、この歳だから、若い頃のように勢いだけじゃダメなんだ。でも、ネット恋愛のコツさえ掴めば、まだまだイケる。お前たちも、もっと自信を持てよ。」

俺は、若い二人組にも視線を向けた。一人は、もう一度スマホに視線を落とし、もう一人は、俺の言葉に微かに頷いた。

「俺なんて、もうすぐ40歳だ。でも、ネットで知り合った娘と、今でも月に数回は会ってる。」俺は、さらに話を盛った。「相手は、20代前半の、モデルみたいな娘だよ。」

「えー、すごいですね！」サクラが感嘆の声を上げた。

「だろ？だから、お前たちも、もっと戦略的に行け。ネット恋愛ってのは、ゲームみたいなもんだ。ルールさえ分かれば、勝てる。」

俺は、さらに熱を帯びて語り続けた。ネットの海を泳ぐように、俺は巧みに言葉を操り、相手の心理を読み解き、そして、それを自らの欲望を満たすための道具に変えていった。

「考えてみろ。リアルで、いきなり『かわいいね』なんて言っても、相手は警戒するだろ？でも、ネットなら、いくらでも褒められる。相手が喜ぶ言葉を、いくらでも送れる。」

俺は、指を折りながら、さらに「ネット恋愛四ヵ条」の真意を説いていった。

「第一条の嘘は、相手の期待値を上げるための『魔法』だ。第二条の下ネタを我慢するのは、相手に『もっと知りたい』と思わせる『焦らしプレイ』だ。第三条の優しさとマメな連絡は、相手に『自分だけ特別なんだ』と感じさせる『囲い込み』だ。そして、第四条のメンヘラ化は、相手を完全に支配するための『最終兵器』になる。」

俺は、まるで自分が恋愛の神にでもなったかのように、自信に満ち溢れていた。

「それに、声のトーンだ。Vの時の俺の声、覚えてるか？あの、少し甘くて、でも落ち着いた声。あれを、ネットで声を送るときに意識するんだ。相手は、その声に癒され、そして、ドキドキする。」

俺は、改めて、あの特徴的な声のトーンで、「ね、おやすみ。」と、サクラに語りかけた。サクラは、少し顔を赤らめ、視線を逸らした。

「田中さん、なんか、すごいですね。」サクラが、か細い声で言った。

「ああ、そうだろう。俺は、ネット恋愛の『プロ』だからな。」俺は、胸を張った。「お前たちも、もっと学べ。この歳になっても、俺は新しいことを学び続けてるんだ。お前たちなんか、まだまだ伸びしろしかない。」

俺は、目の前の若い二人組を、そしてサクラを、まるでこれから自分が手玉に取る獲物のように見つめた。彼らの純粋な瞳の中に、俺はかすかな期待と、そして、これから自分たちが歩むことになるであろう、甘く危険なネットワークの道を見た。

「さあ、どうだ。俺の教え、試してみたくないか？」俺は、ニヤリと笑い、ビールをもう一口飲んだ。居酒屋の喧騒の中、俺の独りよがりな「恋愛論」は、夜の闇に溶け込んでいく。そして、その声に、微かに共鳴するかのように、サクラのスマホが、静かに振動した。