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■ 過去と現在が交錯する夜

さいたまスーパーアリーナの広大な空間に、懐かしい音楽が響き渡る。数十年ぶりの同窓会。会場は、かつての青春の残像を追い求める人々でごった返していた。乾いた笑い声、賑やかな話し声、そして、微かに漂う香水とタバコの匂い。その全てが、遠い過去へと誘う呪文のようだった。

「…ひろみ？」

不意に、背後から呼びかけられた名前に、私の体は凍りついた。振り向くと、そこに立っていたのは、紛れもない、かつての恋人、健一だった。

「けん、いち…？」

私の声は、震えていた。鏡に映った自分は、もうあの頃の少女ではない。顔には薄い皺が刻まれ、髪にも白髪が混じり始めている。それでも、健一の目は、あの頃と変わらず、まっすぐに私を見つめていた。

「信じられないな。本当にひろみか？」

健一も、私と同じように驚きを隠せない様子だった。彼は、あの頃の、少しやんちゃで、でも優しい笑顔のまま、少しだけ大人になった顔をしていた。

私たちは、あの頃、誰よりも激しく愛し合った。しかし、運命は私たちを残酷に引き裂いた。私の家庭の事情、彼の将来。あらゆる障害が、私たちを遠ざけた。そして、私は彼に別れを告げ、別の道を歩んだ。結婚し、子供を育て、平穏な家庭を築いた。健一も、きっとどこかで幸せな人生を送っているはずだと、そう信じていた。

「元気だった？」

健一の問いに、私は頷くことしかできなかった。言葉が、喉につかえて出てこない。私たちの間には、言葉にできないほどの年月と、それぞれの人生が横たわっている。

「昔話、しようよ」

健一は、そう言って私を会場の隅にある、少し落ち着いたバーへと誘った。私たちは、静かなテーブルに座り、グラスを傾けた。

「あの頃、よくここで待ち合わせしたね」

健一が、懐かしそうに呟いた。私も、あの頃の甘酸っぱい記憶が蘇ってくる。放課後、二人で歩いた帰り道。初めて手をつないだ時の、ドキドキした感覚。そして、初めてのキス。全てが、鮮明に思い出された。

「あの時、本当は…」

健一が、言いかけた言葉に、私の心臓が大きく跳ねた。あの時、彼が伝えられなかった想い。私も、彼に伝えられなかった想い。私たちは、お互いの胸に、秘めたままの言葉を抱えて生きてきたのだ。

「俺、ひろみのこと、ずっと忘れたことなかったよ」

健一の言葉は、私の心の奥底に、静かに、しかし力強く響いた。私は、彼を見つめ返した。彼の瞳は、あの頃と同じ、熱を帯びていた。

「私も…」

私の声は、震えていた。理性は、この場を離れるべきだと囁く。家庭がある。夫がいる。子供がいる。しかし、この熱い視線、この懐かしい温もりは、私の理性を溶かし始めた。

「もう、全部、忘れよう」

健一が、私の手をそっと握った。その指先から伝わる熱が、私の全身を駆け巡る。彼の指は、あの頃のまま、力強く、そして優しかった。

「でも…」

「大丈夫。今だけ、俺たちの時間だから」

健一は、私の頬を優しく撫でた。その感触は、まるで夢の中にいるようだった。私たちは、お互いの目を見つめ合い、吸い寄せられるように、唇を重ねた。

それは、封印されていた情熱の解禁だった。長年の空白を埋めるように、激しいキスを交わす。会場の喧騒は遠く、ただ私たちの息遣いだけが、そこにあった。

健一は、私を抱きしめた。その腕は、あの頃よりも力強く、私を包み込む。彼の胸に顔を埋めると、安堵感と、それ以上の興奮が私を襲った。

「ひろみ…」

健一の声は、甘く、そして切なさに満ちていた。彼の声を聞くたびに、私の心は乱れる。

私たちは、会場の喧騒を離れ、ホテルの部屋へと向かった。部屋は、静かで、暗かった。窓の外には、都会のネオンが瞬いている。

健一は、私をベッドに優しく押し倒した。彼の瞳は、獲物を狙う獣のように、ギラギラと輝いている。私は、彼の熱に身を任せるしかなかった。

彼の指が、私の服をゆっくりと剥がしていく。肌に触れるたびに、熱い火花が散る。私たちは、まるで初めて出会ったかのように、お互いの肌を貪るように求め合った。

「ああ…ひろみ…」

健一の喘ぎ声が、部屋に響き渡る。私も、彼の名前を叫んだ。この激しい情熱は、私たちが封印してきた、過去の愛の証だった。

私たちは、理性を失い、ただひたすらに求め合った。許されぬ情熱は、私たちの体を激しく結びつけ、快楽の頂点へと導いた。それは、禁断の果実を味わうような、危険で、そして甘美な時間だった。

夜が明ける頃、私たちは、疲労と満足感に包まれ、静かに抱き合っていた。部屋に差し込む朝日が、私たちの顔を照らし出す。

「…ごめん」

健一が、静かに呟いた。私も、彼の胸に顔を埋めた。

「ううん、私の方こそ」

私たちは、この夜が、二度と戻らない、特別な時間であったことを、静かに理解していた。

ホテルを出ると、そこには、いつもの日常が待っていた。私は、健一に別れを告げ、自分の人生へと戻っていく。しかし、あの夜の熱と、彼の瞳に宿った炎は、決して消えることはないだろう。

懐かしさの仮面の下に隠されていた、許されぬ情熱。それは、私の心に、忘れられない、甘く、そして危険な傷跡を残した。