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## 夏休みの補習と、二人きりの夜

蝉の声が五月蝿いくらいに響く八月。僕、佐々木悠馬は、青ざめた顔で寮の部屋の壁を睨んでいた。夏休み。本来なら、海へ、山へ、あるいはただただ実家でダラダラと過ごすはずだった。だが、僕の甘すぎる勉強不足が招いた結果、補習が決定。しかも、僕の所属する農学部は、夏季休暇中の実習が必須という特殊なカリキュラムが組まれており、補習組は大学の施設に残らなければならないのだ。

「マジかよ…」

広すぎる寮の部屋に、一人。窓の外では、開放的な夏休みを満喫する学生たちの声が遠くで聞こえる。虚しさだけが、じわじわと染み渡ってきた。補習は数日後から始まる。それまでの間、僕は文字通り「一人ぼっち」の時間を過ごすことになる。

そんな憂鬱な日々が続くと思っていた矢先、僕に思わぬ転機が訪れた。

「あの…佐々木君、いらっしゃいますか？」

ドアをノックする音に、怪訝な顔でドアを開ける。そこに立っていたのは、同じ農学部の、いや、大学でも屈指の美人として知られる、藤原美咲だった。彼女とは、講義で何度か顔を合わせたことはあるものの、まともに話したことなど一度もなかった。

「あ、藤原さん。どうしたの？」

「あの、私…実家に帰れなくなってしまって。」

彼女の言葉に、僕は耳を疑った。美咲さんが？実家に帰れない？

「え、どうして？」

「祖父が急に病気になってしまって、家族みんなで看病することになったんです。それで、私も…」

彼女は少し申し訳なさそうに、でも、どこか寂しそうに俯いた。

「そうなんだ…それは大変だね。」

僕も、補習で帰れない身。慰める言葉など、見つからなかった。

「それで、その…寮も、今、私しか残っていないみたいなんです。なので、もしよかったら、少しの間、お部屋を…」

彼女の顔が、ほんの少し赤らむ。僕と二人きり？美咲さんと？心臓が、ドクンと大きく脈打った。

「あ、うん！全然いいよ！むしろ、一人より誰かいる方が心強いし！」

僕の予想外の返答に、彼女の表情がぱっと明るくなる。

「ありがとうございます！助かります！」

そうして、僕の「一人ぼっち」の夏休みは、藤原美咲という、予想外の、そしてあまりにも眩しい存在と共に幕を開けた。

美咲さんが僕の部屋に荷物を運び入れてきたのは、その日の夕方だった。彼女の部屋は、僕の部屋と隣同士。偶然にも、隣同士になったことに、運命的なものを感じてしまう自分に、苦笑いが漏れた。

「本当にありがとう、佐々木君。一人だと、心細かったから。」

「いや、僕もだよ。一人だと、どうしようもなく退屈だったから。」

僕たちは、お互いの状況を慰め合うように、ぎこちなく笑い合った。

翌日から、僕たちの共同生活が始まった。補習の課題は山積みだったが、美咲さんがいてくれることで、不思議とやる気が出てきた。彼女は、僕の理解できない部分を、根気強く、丁寧に教えてくれた。

「ここ、もう一度説明するね。この式はね…」

彼女の声は、どこか心地よく、僕の耳にすっと染み込んでくる。真剣な横顔に見惚れてしまい、何度か課題から上の空になってしまったことは、ここだけの秘密だ。

ある日の午後、補習の課題が一段落し、少し息抜きをしていた時だった。僕が参考書を読んでいると、隣で美咲さんが、微かに寝息を立て始めた。彼女の顔は、普段のクールな表情とは違い、とても柔らかく見えた。

「…寝ちゃったか。」

静かに立ち上がり、毛布をかけようとした、その時。

彼女の寝顔が、あまりにも魅力的で、僕の理性は、一瞬にして吹っ飛んだ。

「…綺麗だな。」

無意識のうちに、僕の手が伸びていた。彼女の頬に触れる。さらさらとした肌触り。そのまま、指先が、彼女の唇へと滑り寄る。

「…っ！」

その瞬間、美咲さんが、小さく身じろぎした。

しまった。

後悔の念が、一気に僕の全身を駆け巡った。彼女を起こしてしまった。しかも、こんな、許されない行為を。

彼女は、ゆっくりと目を開けた。そして、僕の顔を見た。

その眼差しは、普段の穏やかなものではなかった。鋭く、冷たい。まるで、獲物を品定めする獣のような。

「…佐々木君。」

彼女の声は、低く、静かだった。その静けさの中に、凍えるような冷気が宿っていた。

「ご、ごめん！寝ぼけてて、つい…」

必死に弁解しようとする僕を、彼女はただ、じっと見つめている。その視線に、僕は息が詰まりそうになった。

「…。」

彼女は何も言わない。ただ、僕を見つめている。その無言の時間が、僕の背筋を凍らせた。

「本当に、ごめんなさい。」

もう一度、謝る。彼女は、ゆっくりと、顔を僕から背けた。

「…もう、いいです。」

その声には、感情の欠片も感じられなかった。彼女は、そっと、自分の頬に触れた。そして、再び、鋭い視線で僕を見た。

「…あの、佐々木君。」

彼女の声は、先ほどよりも、さらに低く、そして、どこか妖艶さを帯びていた。

「あの形で、満足した？」

彼女の言葉に、僕は、意味が理解できず、ただ、固まってしまった。

「…え？」

「あんな形で、満足したの？…私、もっと、ちゃんと、エッチしたいんだけど。」

彼女の口から飛び出した言葉に、僕は、頭の中が真っ白になった。

「え…あの…」

「ふふ。」

彼女は、くすりと笑った。その笑みは、先ほどの冷たいものとは全く違う、挑発的なものだった。

「だって、佐々木君、私のこと、そういう目で見てたんでしょ？」

彼女は、ゆっくりと立ち上がり、僕の前に歩み寄ってきた。彼女の距離が、ぐっと近くなる。

「私、そういうの、嫌いじゃないんだ。」

彼女の吐息が、僕の顔にかかる。その甘い香りに、僕の理性は、完全に麻痺していた。

「それに、補習も、二人きりだし。」

彼女は、僕の首筋に、そっと、唇を寄せた。

「…もっと、ちゃんと、エッチ、したい。」

その言葉が、僕の全身を駆け巡った。

「…藤原さん…」

「美咲って呼んで。」

彼女は、顔を上げ、僕の瞳をまっすぐに見つめた。その瞳は、先ほどの冷たさは消え、情熱的な光を宿していた。

「私、佐々木君のこと、ずっと見てたんだ。」

彼女の指先が、僕のシャツのボタンに触れる。

「補習で、二人きりになったら、こうなるんじゃないかって、期待してた。」

彼女の言葉は、僕の想像を遥かに超えていた。

「…でも、佐々木君、優しすぎるんだね。」

彼女は、僕の顔を覗き込んだ。

「あんな形で、私を、困らせちゃった？」

彼女の唇が、僕の耳元で囁く。

「でも、大丈夫。」

彼女は、僕の頬に、そっと触れた。

「私、もう、我慢できない。」

彼女は、僕の顔を、ぐっと引き寄せた。そして、僕の唇に、熱いキスを落とした。

その瞬間、僕の夏休みは、予想もしなかった、激しい夜へと突入していった。

彼女の部屋へと連れ込まれ、僕の抵抗は、もはや意味をなさなかった。彼女は、僕が想像していた以上に、大胆で、情熱的だった。

「あー…佐々木君、上手…。」

彼女の声が、部屋中に響く。僕の金玉は、彼女の奔放な攻めに、文字通りカラッポになるまで、何度も、何度も、求められた。

夜が明ける頃には、僕の体は、くたくたに疲れていた。だが、その疲労感は、心地よいものだった。

「…もう、無理…。」

僕は、力なく、彼女の胸に顔を埋めた。

「ふふ。まだ、始まったばかりだよ？」

彼女は、僕の髪を優しく撫でながら、囁いた。

「この夏休み、佐々木君には、たくさん、私を、満たしてほしいんだ。」

彼女の言葉に、僕は、ただ、頷くことしかできなかった。

補習は、まだ始まったばかり。そして、僕の夏休みは、藤原美咲という、予想外の、そしてあまりにも熱烈な存在と共に、まだまだ続いていくのだろう。

窓の外からは、再び、蝉の声が聞こえ始めた。だが、その声は、もう、僕を孤独に感じさせることはなかった。むしろ、この熱く、官能的な夏を、これから始まる、更なる夜を、予感させているかのようだった。