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■ 鋼鉄の華と紅蓮の炎 ～王座を巡る乱入劇～

薄暗い体育館に響き渡る興奮と熱狂。リング上では、女子プロレス「鋼鉄の華」の至宝、インターナショナル・チャンピオンシップのベルトを巡り、現王者である“鋼鉄の女王”アスカ・レジェンドと、挑戦者の“美脚の魔術師”サクラ・フローラが激しい攻防を繰り広っていた。

ゴングが鳴り響いてからというもの、会場は息つく暇もないほどの応酬に次ぐ応酬だ。アスカのパワーと経験に裏打ちされた豪快な技は、サクラの俊敏な動きと予測不能な関節技でいなされ、逆にサクラの放つ華麗な蹴り技は、アスカの鉄壁の防御をわずかにかすめる。

「カァァァァァン！」

レフェリーのコールが、汗と熱気に包まれた会場に響く。アスカが渾身のエルボードロップを放つも、サクラは紙一重でこれをかわし、カウンターのドロップキックでアスカをぐらつかせる。観客席からは、割れんばかりの歓声が沸き起こる。

「行けー！サクラ！」
「アスカ！王座を守ってくれ！」

試合は終盤に差し掛かり、両者ともに疲労の色は隠せない。それでも、その瞳に宿る闘志は、衰えるどころか燃え盛る炎のようだった。アスカはサクラを抱え上げ、必殺のジャーマンスープレックスを狙う。会場全体が固唾を飲んでその瞬間を見守った。

しかし、その時だった。

「ガシャァァァン！！」

体育館の入口が勢いよく開け放たれ、けたたましい金属音が響き渡った。騒然とする観客席、そしてリング上の両者。その視線の先には、二人の見慣れぬ女性レスラーが仁王立ちしていた。

一人は、全身を鈍い銀色に光らせる、まるで鋼鉄の鎧を纏ったかのような迫力を持つ、女子プロレス界の異端児、“金子きぃ”。もう一人は、燃え盛る紅蓮の炎を思わせる鮮やかな赤いコスチュームに身を包み、鋭い眼光を放つ、新進気鋭のパワーファイター、“赤木カリン”。

「な…なんだ、あれは！？」
「金子きぃ！？赤木カリン！？まさか、このタイミングで…！」

実況席からは、驚愕の声が飛び交う。二人は、かつて「鋼鉄の華」で一時代を築いた伝説のタッグチーム「鋼鉄と紅蓮」のメンバーだった。しかし、何らかの確執からチームを解消し、それぞれが別々の団体で活動していたはずだ。

きぃは、ゆっくりとリングへと歩みを進める。その足音は、まるで地響きのように重く、会場の空気を一変させた。カリンは、その隣で、炎のように熱い視線をリング上の二人、いや、アスカに突き刺す。

「ストップ！」

きぃの低い、しかし力強い声が響き渡る。レフェリーが慌てて二人の前に立ちはだかるが、きぃの眼光に射抜かれ、一歩後ずさる。

「これは、俺たちのリングだ。お前たちの茶番に付き合っている暇はない。」

きぃは、アスカに向かって静かに告げた。その声には、かつての威厳と、そしてどこか哀愁が漂っている。

「…きぃ？あんた、どうしてここに…」

アスカは、信じられないといった表情で、きぃを見つめる。彼女もまた、「鋼鉄の華」できぃと同期であり、良きライバルでもあった。

「カリン…あんたも…」

アスカは、カリンにも視線を送る。カリンは、ただ静かに、しかし強い意志を秘めた表情で、アスカを睨みつけていた。

「アスカ、あんたももう終わりだ。その退屈な王者っぷりも、もう沢山だ。」

カリンが、挑発するように言った。その声には、闘争心が剥き出しになっている。

「私達は、このベルトを奪いに来た。あんた達には、もう荷が重い。」

きぃは、きっぱりと言い放つ。その言葉は、アスカとサクラの間に、静かな波紋を広げた。

「な…何を言っているんだ！この試合は、正々堂々行われているんだ！」

サクラが、憤慨して反論しようとする。しかし、その声は、きぃとカリンが放つ圧倒的なオーラにかき消されそうだった。

「正々堂々？そんなもの、とっくに捨てた。」

きぃは、冷ややかに笑う。そして、カリンと共に、ゆっくりとリングへと足を踏み入れた。

「何をするつもりだ！」

レフェリーが制止しようとするが、きぃはそれを力で退ける。カリンは、アスカの背後に回り込み、その襟首を掴んだ。

「…離せ！」

アスカが抵抗するが、カリンの力は想像以上に強い。

「これは、私達「鋼鉄と紅蓮」への挑戦だ。あんた達は、その資格すらない。」

カリンは、アスカをリング中央に突き飛ばす。アスカは、その場に倒れ込み、しばらく立ち上がれない。

「サクラ！大丈夫か！」

アスカが、サクラに声をかける。サクラは、きぃの威圧感に怯みながらも、必死に立ち上がろうとしていた。

「…きぃ、カリン。あんた達がどうしてこんなことを…」

アスカが、苦しげに尋ねる。

「簡単だ。あんた達が、この「鋼鉄の華」を、あまりにもつまらないものにしたからだ。」

きぃは、冷たく言い放つ。

「私達が、この団体を、再び熱狂の渦に叩き込んでやる。」

カリンは、そう言いながら、リングサイドに置かれていたインターナショナル・チャンピオンシップのベルトに手を伸ばす。

「待て！それは俺たちの…！」

サクラが叫ぶが、きぃはそれを容赦なく蹴り飛ばす。

「邪魔だ。」

そして、カリンはベルトを掴み、アスカに突きつけた。

「このベルトは、もうあんた達には相応しくない。」

カリンの言葉に、会場は静寂に包まれる。興奮も、歓声も、悲鳴も、全てが凍り付いたかのような静けさだ。

「…そうか。」

アスカは、ゆっくりと立ち上がる。その顔には、怒りや悲しみではなく、どこか諦めと、そして新たな決意のようなものが宿っていた。

「あんた達が、そんなにもこのベルトを欲するなら…」

アスカは、きぃとカリンに向き直る。

「…力ずくで奪うがいい。」

その言葉を聞いた瞬間、きぃとカリンの顔に、かすかな笑みが浮かんだ。

「いいだろう。だが、後悔しても遅いぞ。」

きぃは、そう言いながら、カリンと共にリングを降りる。

「…次だ。次は、あんた達に、このベルトを賭けて、正々堂々挑んでやる。」

アスカは、そう誓うように呟いた。その瞳には、再び闘志の炎が灯っていた。

こうして、「鋼鉄の華」のインターナショナル・チャンピオンシップのタイトルマッチは、金子きぃと赤木カリンの突然の乱入によって、まさかの乗っ取りという形で幕を閉じた。しかし、それは終わりではなかった。それは、新たな伝説の始まりを告げる、壮絶な序章に過ぎなかったのだ。

会場に残されたのは、混乱と、そして、これから始まるであろう、さらに激しい抗争への予感だけだった。鋼鉄の華の舞台は、再び、熱狂と混沌の坩堝へと塗り替えられようとしていた。