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## 宵闇の黒猫

窓の外は、都会のネオンが滲む漆黒の夜。私の部屋は、そんな夜の色を吸い込んだように静まり返っていた。ソファに寝そべり、指先でグラスの氷を弄ぶ。冷たい感触が、高鳴る鼓動をわずかに鎮めてくれた。

「ふぅ…」

ため息をつき、もう一口ワインを流し込む。今夜も、あの人のことを考えていた。彼の名は、リクト。私が出会った中でも、最も異質な、そして最も魅惑的な男だった。

初めて彼を見たのは、とあるアンダーグラウンドなクラブだった。隠れ家のようなその場所は、知る人ぞ知る、選ばれた者たちのための空間。そして、そこで私は、まるで夜そのものが具現化したかのような彼に出会った。

漆黒の肌。それは、太陽の光を拒絶するかのような、深みのある黒。まるで、夜空の最も暗い部分を切り取ってきたかのようだった。そこに、驚くほど引き締まった、しなやかな身体が、黒豹のようにしっとりと絡みつく。その姿は、見る者の視線を釘付けにした。

そして、彼の顔。

人形のように整った、どこか儚げな、それでいて力強い顔立ち。透き通るような肌に、吸い込まれそうなほど深い瞳。しかし、その整った顔立ちからは想像もできないほど、彼の腰つきは、妖艶で、挑発的だった。音楽に合わせて揺れるその腰は、まるで生き物のように、官能的な曲線を描く。見る者の心臓を鷲掴みにし、理性を溶かしていくような、抗いがたい魔力を持っていた。

「たまらない…」

あの夜、私は喉の奥でそう呟いた。それは、理性ではどうすることもできない、本能的な叫びだった。

リクトは、多くを語らなかった。ただ、その存在そのものが、圧倒的な物語だった。彼の周囲には、常に神秘のベールが纏わりついているようで、近寄りがたいオーラを放っていた。しかし、不思議と、私は彼から目が離せなかった。まるで、暗闇に光る蛍のように、彼の存在は私の闇を照らし出した。

何度か、偶然を装って彼に近づいた。クラブの片隅で、一人静かにグラスを傾ける彼に、さりげなく話しかけた。彼の声は、低く、響くような音色。その声を聞くだけで、身体の奥底がざわめいた。

「今夜も、素敵ですね」

そう微笑みかけた私に、彼はゆっくりと顔を上げた。その漆黒の瞳が、私を捉える。そこには、星屑のような光が宿っていた。

「…君も、だ」

彼はそう答えた。その言葉は、私の心を鷲掴みにした。私は、彼にとって「特別」な存在になれるのだろうか。そんな淡い期待が、胸を締め付けた。

それから、私たちは少しずつ距離を縮めた。クラブで顔を合わせるたびに、視線を交わし、言葉を交わした。彼の肌に触れた時の、あの滑らかで温かい感触。彼の吐息が、私の耳元にかかった時の、あのゾクゾクするような興奮。全てが、私を彼という名の迷宮に深く誘い込んでいくようだった。

ある夜、クラブの喧騒から逃れるように、私たちは外に出た。月明かりが、彼の漆黒の肌を妖しく照らし出す。彼の顔には、影が落ち、より一層神秘的な雰囲気を醸し出していた。

「リクト…」

思わず、彼の名前を呼んだ。彼は、私の呼びかけに、ゆっくりと振り返った。その瞳に、微かな戸惑いと、それ以上の熱が宿っているのが見えた。

「…どうした？」

彼の声に、私は吸い寄せられるように歩み寄った。そして、彼の腕にそっと触れた。その腕は、予想以上に力強く、そして温かい。

「あなたのこと、もっと知りたいんです」

私の言葉に、彼の表情がわずかに変わった。戸惑いは消え、代わりに、深い興味の色が宿る。

「…私を？私には、何も…」

彼は、そう言いかけた。しかし、私は彼の言葉を遮るように、さらに一歩近づいた。

「いいえ。あなたには、たくさんのものがあります。あなたの、あの…」

私は、言葉に詰まった。あの、魅惑的な腰つきのこと、どう表現すればいいのか。

「あの…腰つき、本当に…」

私は、恥ずかしさを感じながらも、正直な気持ちを伝えた。リクトは、私の言葉に、微かに微笑んだ。その微笑みは、闇夜に咲く花のように、儚くも美しい。

「…君は、変わっているな」

そう言って、彼は私の頬にそっと手を伸ばした。その指先が、私の肌を優しく撫でる。その温かさに、私は目を閉じた。

「でも、嫌いじゃない」

彼の言葉が、私の耳に心地よく響いた。そして、その指先が、ゆっくりと私の顎を捉え、顔を上げさせた。彼の顔が、私の顔に近づいてくる。漆黒の瞳が、私の瞳を覗き込む。そこには、先ほどよりもずっと強い、情熱的な光が宿っていた。

「君の、その…人形みたいな顔立ちも、悪くない」

そう言って、彼は私の唇に、そっと触れた。それは、まるで羽根が触れるかのような、繊細なキス。しかし、そのキスは、私の全身に電流を走らせた。

「どエロい、って、こういうこと…？」

私の問いに、彼は何も答えなかった。ただ、その唇を、私の唇に重ねた。それは、先ほどとは違う、もっと深く、もっと情熱的なキスだった。彼の舌が、私の唇を優しくなぞり、そして、私の口の中に滑り込んできた。

彼のキスは、まるで漆黒の夜そのものだった。深く、暗く、そして抗いがたい。私の理性が、次々と溶かされていく。彼の黒豹のような身体が、私を優しく包み込む。彼の肌の、あの滑らかな感触が、私をさらに酔わせる。

私たちは、その夜、言葉を交わすことは少なかった。ただ、互いの存在を確かめ合い、熱に浮かされたように、ただただ求め合った。彼の腰つきは、あのクラブで見た時よりも、ずっと大胆で、挑発的だった。その動き一つ一つが、私の理性と本能を揺さぶる。

「リクト…っ」

私は、彼の首筋に顔を埋め、喘いだ。彼の纏う、独特の香りが、私をさらに狂わせる。

「…君は、私のことを、どう見ている？」

少し落ち着いた頃、彼は私の耳元で囁いた。

「…黒猫のよう」

私がそう答えると、彼は、くつくつと笑った。

「黒猫、か…」

彼は、私の髪にキスをした。

「じゃあ、君は、私にとって、どんな存在なんだ？」

彼は、私の顔を覗き込んだ。その瞳は、月明かりを映して、キラキラと輝いている。

「…私にとって、あなたは、夜そのもの。そして、その夜に、吸い寄せられる、一番綺麗な月…」

私の言葉に、彼は、満足そうに頷いた。そして、もう一度、私を深く抱きしめた。

「君は、本当に面白いな」

彼の言葉に、私は、彼の胸に顔を埋めた。漆黒の肌、黒豹のような身体、人形のような顔立ち、そして、あのどエロい腰つき。全てが、私を魅了してやまない。

リクトとの関係は、これからもどうなるのだろうか。それは、まだ私にも分からない。しかし、一つだけ確かなことがある。私は、この漆黒の夜に、彼という名の魅力的な黒猫に、完全に心を奪われてしまったのだ。そして、その夜の続きを、私は、ずっと求めてしまうだろう。

窓の外のネオンは、今も滲んで、漆黒の夜を彩っている。私は、リクトの温もりを思い出しながら、静かに目を閉じた。この夜は、まだ始まったばかりだ。