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■ 都会の片隅で、秘密の花が咲く

真夏の太陽がアスファルトを焦がす午後、恵比寿のカフェテラスで私は一人、アイスカフェオレを啜っていた。時計の針は午後3時を指し、そろそろ夫が帰ってくる時間だ。しかし、私の心は、日々の単調な生活からかけ離れた、ある期待感に満ちていた。

「あの…」

背後から聞こえた、少し掠れた、しかし甘い声に、私はゆっくりと振り返った。そこに立っていたのは、想像していたよりもずっと若い、そして圧倒的なオーラを放つ男性だった。

「こんな暑い日に、一人でいるなんて、もったいないですよ」

彼は、私の隣の席に、許可なく座る。しかし、その屈託のない笑顔と、吸い込まれそうなほど魅力的な瞳に、私は拒絶の言葉を口にできなかった。彼の名は、タクミ。フリーのカメラマンだという。

「私、結婚してるんです…」

絞り出した言葉は、どこか頼りない響きを持っていた。

「知ってますよ。でも、だからこそ、あなたのようなダイヤモンドの原石を見つけられたんじゃないかって、直感したんです」

タクミは、私の手を取り、指先で優しく撫でた。その温かい感触に、私の身体は微かに震える。結婚して5年。夫は仕事人間で、私に構ってくれる時間はほとんどない。穏やかで優しい人だけれど、刺激とは無縁の生活。私は、心の奥底で、ずっと満たされない渇きを感じていた。

「…どういう意味ですか？」

「あなたが、本当はもっと、情熱的な何かを求めているってことですよ。その瞳の奥に、隠しきれない輝きがある」

タクミの言葉は、私の心の奥底に眠っていた、抑えきれない欲望を呼び覚ますようだった。彼の言葉は、まるで私の心を映し出す鏡のようだった。

「私…そんな…」

「隠さなくていいんです。私には、あなたの全てが見えますから」

タクミは、私の顔を覗き込む。その真剣な眼差しに、私はもう嘘をつくことができなかった。

「…本当は、少し、刺激が欲しいって思ってるのかもしれません」

「でしょう？ 誰もが、あなたみたいな綺麗な奥さんを、ただの『奥さん』としてしか見ない。でも、私には見える。その中の、情熱的な一面が」

タクミの言葉は、甘く、そして危険な響きを帯びていた。私は、まるで操り人形のように、彼の言葉に引き寄せられていく。

「…でも、夫が…」

「大丈夫。あなたは、私だけのために、ほんの少しだけ、自分を解き放ってあげればいいんです」

その夜、私は、タクミのマンションで、今まで経験したことのないような夜を過ごした。彼の指先は、私の身体の隅々までを熟知しているかのように、優しく、しかし大胆に私を愛撫した。私の身体は、彼の愛情表現に、堰を切ったように応えていく。

「…っ、タクミさん…！」

喘ぎ声が、部屋中に響き渡る。私の身体は、彼の熱い吐息に、恍惚と震えていた。今まで眠っていた私の本能が、目覚めた瞬間だった。

「そう、もっと声を聞かせて…」

タクミは、私の耳元で囁き、さらに私を熱狂の渦へと引きずり込んだ。彼の愛撫は、私の身体の奥深くに潜む、抑えきれない情熱に火をつけた。私の身体は、彼の欲望に応えるように、激しく波打った。

「…あ、ああ…！」

私の絶頂は、まるで花火のように、夜空を彩る。タクミは、私の顔を優しく抱きしめ、その濡れた唇にキスを落とした。

「綺麗だ…本当に、綺麗だ」

彼の言葉に、私は、今まで感じたことのない幸福感に包まれた。

翌朝、私は、タクミの腕の中で目覚めた。窓の外には、都会の喧騒が始まっていた。

「ありがとう、タクミさん。夢みたいだった…」

「夢じゃないですよ。これは、現実です。そして、いつでも、あなたを待っています」

タクミは、私の頬にキスをし、そして、私に一枚のカードを渡した。そこには、彼の連絡先と、「いつでも、あなたの秘密の花園を開きます」と書かれていた。

家に帰ると、夫はいつも通り、仕事の話をしていた。私は、彼の隣で、静かに頷いていた。しかし、私の心の中には、昨夜の熱がまだ残っていた。タクミの言葉、彼の温もり、そして、私の中に芽生えた新しい感情。

この秘密は、私だけのもの。そして、この秘密は、私の日常に、ほんの少しの、しかし確かな輝きを与えてくれた。都会の片隅で、私の秘密の花は、静かに、しかし力強く咲き始めていた。それは、私だけの、罪深くも甘美な、秘密の約束だった。