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## エロ都市伝説ファイル：歪んだ欲望の輪郭

深夜、蛍光灯がチカチカと明滅する編集プロダクションの一室。締め切り間際の焦燥感が漂う中、私はモニターに映る歪んだテキストと格闘していた。「エロ都市伝説ファイル」、通称“エロ伝”シリーズ最新作の校正作業だ。

このシリーズは、巷に蔓延るエロい噂、都市伝説の真相に迫るという触れ込みで、主にネットや雑誌で細々と展開されている。実態はというと、半分はガセネタ、残り半分は誇張と捏造で塗り固められた、刺激的なゴシップ記事の寄せ集めだ。

今回担当したのは、新人編集者の佐々木だった。彼は目を充血させながら、今回の目玉企画である「団地まるごと売春宿」の記事を熱心に推敲していた。

「先輩、これマジでヤバくないですか！？団地の自治会長が仕切ってるって書いてあるんですよ！しかも、住民の了解も得ずに！」

佐々木の興奮ぶりに、私は内心ため息をついた。どうせデタラメだろう。しかし、取材元が「信頼できる情報筋」としか書かれていない時点で、疑念は拭えない。

「佐々木、記事の裏付けはちゃんと取れてるのか？団地名とか、具体的な証拠はあるのか？」

「それが…情報源が固く口を閉ざしていて…でも、住民の証言らしきものがいくつか…」

案の定だった。私はデスクに積み上げられた資料に目を落とした。ブラック企業の枕営業、スマホゲームを使ったタダマン、裏風俗の聖地潜入ルポ…どれもこれも、真偽の怪しい情報ばかりだ。

「エロ伝」シリーズは、人間の欲望を刺激し、好奇心をくすぐることで売上を伸ばしてきた。しかし、私はその歪んだ欲望の輪郭をなぞるような仕事に、次第に嫌気が差していた。

数日後、私は新宿の雑踏の中にいた。今回の企画の一つである「裏風俗の聖地と呼ばれる西○口潜入ルポ」の取材のためだ。

昼間の西口は、人々の喧騒と工事の音が入り混じり、活気に満ち溢れていた。しかし、日が暮れ始めると、街の表情は一変する。薄暗い路地裏には、怪しげなネオンが灯り、客引きの声が耳にまとわりつく。

私はカメラを構えながら、街の様子を記録していった。すると、目の前に古びたアパートが現れた。そこには、手書きの看板が掲げられていた。「癒やしの空間」。

私は意を決してアパートの中に入った。薄暗い廊下には、独特な匂いが立ち込めていた。奥の部屋からは、女性の笑い声が聞こえる。

私は自分の存在を悟られないように、そっと部屋の前を通り過ぎた。しかし、その瞬間、部屋のドアが開き、中から一人の女性が出てきた。

女性は私を見るなり、顔色を変えた。「何してるの？こんなところで！」

私は咄嗟に身を隠そうとしたが、間に合わなかった。女性は私を掴まえ、大声で叫び始めた。「変質者！助けてー！」

たちまち、周りの住人たちが集まってきた。私は事情を説明しようとしたが、誰も聞いてくれない。気がつけば、私は警察に連行されていた。

警察署で事情聴取を受けた結果、私は建造物侵入罪で起訴されることになった。私は会社に連絡し、弁護士を紹介してもらった。

弁護士は私に言った。「今回の件は、正直言って厳しいですね。あなたの行為は、不法侵入に当たる可能性があります。」

私は頭を抱えた。まさか取材が原因で、自分が逮捕されることになるとは思ってもみなかった。

裁判の結果、私は執行猶予付きの有罪判決を受けた。会社からは解雇され、私は全てを失った。

私は自分のアパートに戻り、呆然と立ち尽くした。部屋の中は、散らかっていた。私は何もかも嫌になり、ベッドに倒れ込んだ。

ふと、机の上に置いてあった「エロ伝」シリーズの最新作が目に入った。表紙には、団地の写真が大きく印刷されていた。

私はその写真を見つめながら、深く後悔した。なぜ、あんな仕事を引き受けてしまったのだろうか。なぜ、真実を追求しようとしなかったのだろうか。

私は立ち上がり、ゴミ箱に「エロ伝」シリーズを投げ込んだ。そして、新しい仕事を探し始めた。

数ヶ月後、私は小さな出版社で編集の仕事を見つけた。今度の仕事は、エロい噂を追いかけるのではなく、社会問題を掘り下げるものだった。

私は自分の過去を反省し、真実を追求するジャーナリストを目指すことにした。

ある日、私は以前担当していた「エロ伝」シリーズの噂を耳にした。どうやら、今回の事件をきっかけに、シリーズは打ち切りになったらしい。

私は少しだけ安堵した。あの歪んだ欲望の輪郭を描くような仕事が、もう二度と繰り返されないことを願った。

しかし、私は知っている。人間の欲望は、そう簡単に消え去るものではない。いつか、また別の形で現れるだろう。そして、その欲望の輪郭をなぞるような仕事が、誰かによって行われるだろう。

私は、その時こそ、真実を追求するジャーナリストとして、立ち向かいたいと思った。歪んだ欲望の輪郭を正し、より良い社会を築くために。

夕焼け空の下、私は街の喧騒の中に身を投じた。私の心には、新たな希望が芽生えていた。