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## 奇跡の肌触り

梅雨の湿気が肌にまとわりつく、息苦しい東京の午後だった。古びた雑居ビルの薄暗い廊下を、私は早足で進んでいた。目的の部屋のドアの前で立ち止まり、一度深呼吸。胸の鼓動が、普段より速く刻まれているのを感じた。

「ゆかりさん、どうぞ」

ドアを開けてくれたのは、小柄な女性だった。彼女の顔を見て、私は思わず息を飲んだ。紹介されたのは「奇跡の体型を持つ人妻」だったが、それは単なる誇張表現ではないと、一目で分かった。40代だという彼女は、まるで雑誌の表紙から抜け出してきたかのような、見事なプロポーションをしていた。すらりとした手足、引き締まったウエスト、そして健康的な艶を放つ肌。それを身に纏っているのが、紛れもない「人妻」であるという事実に、私は一瞬、現実にいるのかさえ疑ってしまった。

「こんにちは。初めまして、私、〇〇と申します」

丁寧に頭を下げると、彼女は柔らかな笑顔で応えてくれた。

「ゆかりです。どうぞ、中へ」

案内された部屋は、意外にもシンプルで落ち着いた雰囲気だった。白を基調とした清潔感のある空間に、柔らかな間接照明が灯っている。そこだけ時間がゆっくりと流れているような、不思議な安らぎを感じさせた。

「どうぞ、お座りください」

ソファに促され、私も腰を下ろす。ゆかりさんの隣に座ると、ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐった。それは、決してきつくなく、上品で、まるで彼女自身の内側から滲み出ているかのような香りだった。

「ありがとうございます」

私は、彼女のあまりにも完璧な外見に、少しばかり緊張していた。しかし、彼女の穏やかな物腰と、澄んだ瞳に救われた気がした。

「あの…今日は、どういったご縁で…？」

ゆかりさんが、静かに問いかけた。彼女の声もまた、想像していたよりもずっと優しく、耳に心地よかった。

「実は、以前から、その…ある目的のために、こういった場を探しておりました」

言葉を選びながら、私は率直に伝えた。彼女の反応を伺うように、そっと視線を送る。彼女は、私の言葉に驚いた様子もなく、ただ静かに、ゆっくりと頷いた。

「そうなんですね。ご心配なさらないでください。ここは、そういう場所です」

その言葉に、私は心の中で安堵のため息をついた。

「でも、その…私で、よろしいのでしょうか？　彼女は、皆さんのような…」

私の不安を察したのか、ゆかりさんは微笑んだ。

「大丈夫ですよ。私、そういうの、初めてじゃないんです」

その言葉に、私はさらに驚いた。彼女のような人が、なぜ？　しかし、口に出すことはできなかった。

「あの…もしよろしければ、お話を聞かせていただけませんか？　その…〇〇のこと、そして、なぜ…」

私がそう切り出すと、ゆかりさんは少しだけ、遠い目をした。

「…10年、ですかね。夫との、その…」

彼女は、かすかに言葉を詰まらせた。その横顔に、私は一瞬、寂しさのようなものを感じた。

「夫は、仕事が忙しくて…。それに、私も、仕事をしていましたし。なかなか、時間が合わなくて。それに、私自身も、少し…」

彼女は、そこで言葉を切った。そして、ふと、私の顔を見つめ、続けた。

「でも、あの…自分でも、どうしてこうなってしまったのか、分からないんです。結婚して、子供も授かって、周りからは幸せだと言われるのに…。でも、心のどこかで、満たされないものがあったんです。それが、10年くらい前から、どんどん大きくなっていって…」

彼女の言葉は、正直で、飾りがなかった。その率直さに、私はさらに引き込まれていった。

「それで、その…ある日、インターネットで、こういった場所を知ったんです。最初は、抵抗があったんですけど…。でも、どうしても、その…満たされない気持ちを、どうにかしたくて…」

彼女は、そっと、自分の手で自分の胸を撫でた。その仕草は、まるで、自分自身を慰めているかのようだった。

「初めての時は、本当に、怖かったです。でも、相手の方が、とても優しくて…。それに、その…私自身が、ずっと求めていたものだったのかもしれない、って思ったんです」

彼女は、そう言って、ふっと、微笑んだ。その笑顔は、先ほどよりもずっと、穏やかで、そして、少しだけ、艶やかだった。

「…そうなんですね」

私は、ただ、それしか言えなかった。彼女が、どれほどの葛藤を経て、ここに辿り着いたのか、その一部を垣間見た気がした。

「でも、あの…私、実は、貴方のような方と、お会いするのを、ずっと、楽しみにしてたんですよ」

ゆかりさんは、そう言って、私の手をそっと握った。その手は、驚くほど柔らかく、そして、温かかった。

「え？」

私は、思わず、彼女の顔を見つめた。

「だって、貴方…きっと、私とは違う、何か、特別なものを持っているでしょう？」

彼女は、そう言って、私の指先を、そっと撫でた。その指先は、まるで、上質なシルクに触れているかのような、滑らかな感触だった。

「…私、そういうのは、あまり…」

私が謙遜すると、ゆかりさんは、くすくすと笑った。

「そんなことないですよ。貴方からは、そういう、何というか…『求めている』、そういう、強いオーラを感じるんです」

彼女は、そう言って、私の目をまっすぐに見つめた。その瞳には、一切の濁りがなく、ただ、純粋な好奇心と、そして、どこか、私と同じような、満たされない何かへの渇望が宿っているように見えた。

「…そうでしょうか？」

私は、自分の感情を、うまく言葉にできなかった。ただ、彼女の言葉が、私の心の奥底に、静かに、しかし確かに響いているのを感じていた。

「ええ。だから、今日は、私、すごく、楽しみなんです」

ゆかりさんは、そう言って、再び、私の手を握った。その温もりは、まるで、私自身の体温を、優しく、しかし、力強く、呼び覚ますかのようだった。

「あの…その…」

私は、喉が渇いたような感覚に襲われた。彼女の、あまりにも蠱惑的な魅力に、私は、徐々に、しかし確実に、心を奪われていくのを感じていた。

「…私、貴方のような方と、こうして、お話しできることが、本当に、嬉しいです」

ゆかりさんは、そう言って、私の顔を、ゆっくりと、近づけてきた。彼女の吐息が、私の頬にかかり、肌に、微かな、しかし、確かな、熱を帯びさせた。

「…私も、です」

私の声は、自分でも驚くほど、かすれていた。

「さあ、始めましょうか？」

ゆかりさんは、そう言って、私の耳元で、甘く囁いた。その声は、まるで、禁断の果実の甘い誘惑のように、私の理性を、ゆっくりと、しかし、確実に、溶かしていくようだった。

私たちは、互いの視線が絡み合う中で、ゆっくりと、しかし、抗いがたい引力に導かれるように、近づいていった。彼女の指先が、私の頬に触れた瞬間、私の体は、まるで、何年も眠っていたかのように、静かに、しかし、力強く、目覚め始めた。

それは、単なる身体的な行為ではなかった。それは、互いの孤独を、互いの満たされない渇望を、そして、互いの、秘められた「奇跡」を、分かち合う、儀式のようなものだった。彼女の肌は、想像していた以上に滑らかで、その感触は、私の全身の細胞を、一つ一つ、震わせるかのようだった。

そして、その夜、私たちは、互いの「奇跡」に、身を委ねた。それは、言葉では語り尽くせない、官能的で、そして、どこか、悲しくも美しい、一夜だった。彼女の体は、まるで、人間という存在の、究極の美しさを体現しているかのようだった。そして、私は、その美しさに、ただただ、酔いしれるしかなかった。

部屋を出る頃には、窓の外は、すでに夜空に星が瞬いていた。彼女の家を出て、一人、暗い夜道を歩きながら、私は、この夜のことを、深く、深く、噛み締めていた。ゆかりさんとの出会いは、私にとって、単なる一晩の出来事ではなかった。それは、私の人生に、新たな光を灯した、紛れもない、奇跡だった。そして、私は、あの「奇跡の肌触り」を、決して忘れることはないだろう。