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## 艶めく時間（とき）の肖像

「熟れ杉晋作」という名刺を前に、私はしばし呆然とした。インクの鮮やかさと、その名前に込められた熱量が、私の知るビジネスの常識とはかけ離れていた。ビッグモーカル、それは最新テクノロジーを駆使した映像制作会社だったはずだ。しかし、ここにいるのは、その肩書きとは裏腹に、まるで明治時代の書生のような、あるいはそれ以上に個性的とでも言うべき人物だった。

「はじめまして。最近ビッグモーカルに入社いたしました、熟女大好き『熟れ杉晋作』と申します。」

柔らかな、しかし確かな響きを持つ声で、彼は自己紹介を始めた。その声には、年齢を重ねたからこその円熟味と、少年のような純粋さが同居しているように感じられた。彼は私の前に、厚みのある冊子を置いた。表紙には、光沢のある紙に、上品な筆致で「艶めく時間（とき）の肖像」と書かれていた。

「今回の作品で収録させていただいた皆様はズバリ『本物の熟女』です！！」

彼の言葉に、私は思わず噴き出してしまいそうになった。しかし、その熱意に水を差すわけにはいかない。彼は真剣なのだ。

「20代にしか見えないような小娘を熟女として売り出す昨今に皆様も胸を痛めている事とは思いますが、今作は60代から80代までの熟女様を網羅した自信のラインナップでございます。」

彼の語る「昨今」が、どのような時代を指しているのかは定かではなかったが、彼の言葉の端々から、ある種の「真実」への渇望、あるいは「本物」への敬意が感じられた。それは、消費社会のスピードに追いつけず、見失われがちな、確かな価値への希求なのかもしれない。

「愛のあるノーマルセックスから、3Pや青姦などのアブノーマルプレイで美しく喘ぐ本物の熟女様達をご覧いただけたらこの晋作、至上の喜びに存じます。」

その言葉を聞いて、私は一瞬、この人物の異常性に慄いた。しかし、彼の瞳の奥に宿る光は、決して欲望だけではない、もっと深い何かを映し出しているように見えた。それは、彼が「本物の熟女」と呼ぶ女性たちへの、純粋な賞賛、そして彼女たちの人生という物語そのものへの、畏敬の念なのだろうか。

私は、この「熟れ杉晋作」という人物の熱意に、ただならぬものを感じていた。彼は、単なる性的な興奮を求めているわけではない。彼が追い求めるのは、時間という名のフィルターを通して磨き上げられた、人間の「成熟」という美しさなのだ。

「熟れ杉さん、その…『本物の熟女』とは、具体的にどのような方を指すのでしょうか？」

私の問いかけに、彼は満足げに頷いた。

「良い質問です。それは、肌の張りや艶だけでは語れない、内面から滲み出る、経験という名の輝きです。人生の荒波を乗り越え、喜びも悲しみも味わい尽くしたからこそ生まれる、眼差しの深み、声の響き、そして何よりも、自分自身を肯定できる強さ。それらが、『本物の熟女』を形作るのです。」

彼は、冊子をぱらぱらと開いた。そこには、洗練されたポートレートが並んでいた。しかし、それは単なる被写体の美しさを切り取ったものではなく、その人生の断片を、静かに、しかし力強く語りかけてくるような写真ばかりだった。

「この方は、元オペラ歌手です。80代ですが、その声の響きは、まるでベルベットのよう。人生の悲喜こもごもを歌い上げてきた彼女の歌声は、聴く者の魂を震わせます。」

彼は、ある写真に指を差した。そこに写っていたのは、凛とした佇まいを持つ、銀髪の女性だった。その目元には、人生の年輪が刻まれ、しかしその輝きは失われていなかった。

「こちらは、大学教授として長年教鞭をとられていた方です。知的な雰囲気はもちろんのこと、その言葉の選び方、物事の捉え方、すべてにおいて深みがあります。彼女の知性は、まさに熟成されたワインのようです。」

別の写真には、穏やかな笑みを浮かべた、知的な雰囲気の女性が写っていた。その表情は、穏やかでありながらも、内に秘めた力強さを感じさせた。

「そして、こちらは…」

彼は、さらにページをめくった。どの写真にも、共通して、年齢という壁を軽々と超えた、生命力と、揺るぎない自信が宿っていた。彼が「熟女」と呼ぶのは、単なる肉体的な年齢ではなく、人生という時間を豊かに重ねてきた、精神的な成熟を意味しているのかもしれない。

「熟れ杉さん、あなたは、そのような方々を、どのようにして見つけ出されているのですか？」

私の問いに、彼は少し照れたように笑った。

「それは、まさに『運命』としか言いようがありません。しかし、共通しているのは、彼女たちが、自分自身の人生を肯定し、かつ、これから訪れる時間をも大切にしているということです。そして、何よりも、私のような、若い感性を持った人間にも、心を開いてくれるということです。」

彼の言葉には、嘘偽物がないように思えた。確かに、彼のような熱意と、真摯な姿勢があれば、人の心を開くことができるのかもしれない。

「つまり、あなたは、彼女たちの『人生』そのものを、芸術として捉え、表現したい、ということなのでしょうか？」

私の言葉に、彼は目を輝かせた。

「まさしく！　私の目指すところは、そこにあります。単なる肉体的な魅力を切り取るのではなく、彼女たちが生きてきた時間、経験してきた出来事、そして、それら全てを受け入れて、なお輝きを放つ、その『人間性』を、映像として記録したいのです。それは、もしかしたら、現代社会において、最も失われつつある、尊いものではないでしょうか。」

彼の情熱は、私の心を揺さぶった。私は、この「熟れ杉晋作」という人物が、単なる風変わりな人間ではなく、ある種の「美学」を追求する芸術家なのだということに気づき始めていた。

「あの…その、収録内容についてなのですが…」

私は、恐る恐る尋ねた。彼の最初の言葉が、私の頭から離れなかったからだ。

「ああ、もちろん。ご心配なく。私は、彼女たちの意思を尊重し、常に『愛』を持って接しています。快楽だけを求めるのではなく、そこにある感情、温もり、そして、互いを認め合う心。それらすべてが、芸術の一部だと考えています。もちろん、撮影は、彼女たちのプライバシーを最優先に、最大限の配慮をもって行います。」

彼の言葉は、私の予想を良い意味で裏切った。彼が「アブノーマルプレイ」という言葉を使ったことは事実だが、その根底には、相手への敬意と、感情の交流への渇望があるのだと理解できた。それは、単なる刺激を求めるのではなく、人生という長い旅路で培われた、成熟した人間関係における、ある種の「表現」なのだと。

「熟れ杉さん、あなたの作品、ぜひ一度拝見したいと思いました。」

私の言葉に、彼は満面の笑みを浮かべた。

「ありがとうございます。きっと、あなたも『本物の熟女』の魅力を、再発見できるはずです。」

私は、この「熟れ杉晋作」という人物との出会いを、予期せぬ、しかし非常に興味深いものだと感じていた。彼は、時代に流されず、自らの美学を貫く、稀有な存在だ。そして、彼が追い求める「熟女」という存在は、単なる若さや美しさとは異なる、人生という時間を豊かに生き抜いた、真の輝きを放つ女性たちなのだ。

彼の冊子を手に、私は、この「艶めく時間（とき）の肖像」に、どのような物語が秘められているのか、静かに、しかし確かな期待を抱いていた。それは、きっと、私の人生観をも揺るがすような、感動的な体験になるに違いない。そして、この「熟れ杉晋作」という男が、この世に「本物の熟女」の美しさを、新たな形で提示していくのだと、私は確信していた。それは、現代社会が忘れかけている、大切なものを呼び覚ます、彼なりの、そして、至上の愛の形なのかもしれない。