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## 瑠璃色の雫

陽光がアスファルトを照らし、人々の喧騒が街を包んでいた。その中で、ひときわ異彩を放つ女性がいた。艶やかな黒髪は肩にかかり、その輪郭に沿って、信じられないほど豊かに盛り上がった胸元が、上品なワンピースの生地をぴんと張っていた。歩くたびに、その存在感は否応なく周囲の視線を引きつけた。彼女の名は、藤原紗希。30歳。夫・健一の3歳年下だ。

「奥さん、スゴイお綺麗ですね！」

突然、爽やかな声が紗希の背後から飛んできた。振り返ると、20代後半くらいの、いかにも人当たりが良さそうな男性が、屈託のない笑顔で立っていた。手には企業のロゴが入ったタブレット端末を持っている。

「あの、もしよろしければ、ちょっとだけアンケートにご協力いただけませんか？新しいサービスについて、率直なご意見をお伺いしたいんです。」

男性は、ごく自然な流れで、しかしどこか芝居がかったような丁寧さで話しかけてきた。紗希は一瞬、戸惑った。街中で突然声をかけられることは、彼女にとって日常茶飯事だった。その美貌は、彼女自身が望んでいない注目さえも集めてしまう。しかし、この男性の話し方には、どこか人を惹きつける力があった。そして何より、紗希は少し、退屈していた。

夫の健一は、真面目で優しい人物だった。仕事熱心で、家庭を大切にする。しかし、その「大切にする」という行為が、時として紗希にとっては息苦しいほどに「管理」のように感じられることがあった。彼女の行動範囲は、自宅と健一の職場、そして週に一度の食料品の買い出し程度に限定されていた。趣味や友人との交流は、健一の「心配」という名の制約によって、ほとんど叶わなかった。

「アンケート、ですか？」

紗希は控えめに微笑んで返した。その微笑みは、男性の心をさらに掴んだようだ。

「はい、ほんの数分で終わりますので。もしよろしければ、この近くのカフェで…？」

男性は、さらに親切そうな提案をしてきた。紗希は一瞬、健一の顔を思い浮かべた。しかし、今日の健一は休日出勤。帰宅は夜遅くになるだろう。それに、ほんの少しの息抜きくらい、許されるだろう、と。

「…わかりました。では、少しだけ。」

こうして、紗希は男性に連れられ、すぐ近くの洒落たカフェへと足を踏み入れた。窓際の席に座り、運ばれてきたコーヒーの香りに、紗希の表情がわずかに緩んだ。男性は、タブレットを操作しながら、丁寧な言葉遣いでアンケートを進めていく。しかし、その質問の合間に、紗希の容姿を褒める言葉が自然に織り交ぜられた。

「藤原さん、本当にスタイルが良いですね。その…胸元なんて、まるで彫刻のようです。」

男性は、タブレットの画面から目を離し、紗希の顔をじっと見つめた。その視線は、それまでの丁寧さとは異なり、どこか熱を帯びているように感じられた。紗希は、無意識に胸元に手を当てた。健一は、彼女のこの部分を「隠しなさい」と、いつも上品な服を選ぶように言っていた。しかし、この男性の視線は、それを否定するものではなかった。むしろ、その豊かさそのものを肯定するような、強烈な輝きを放っていた。

「ありがとうございます…。」

紗希の声は、微かに震えていた。彼女は、健一との関係に、どこか満たされないものを感じていた。健一は愛情深い。しかし、それは「所有」という形に近かった。彼女の美しさ、彼女の存在そのものが、健一にとっては「自分のもの」という感覚を強く抱かせるようで、それは時として、紗希自身の意志や感情を置き去りにするかのようだった。

「あの、失礼かもしれませんが、ご結婚されているんですか？」

男性は、唐突にそう尋ねた。紗希は、少し驚きながらも、正直に答えた。

「はい、結婚しています。」

「そうですか…。でも、奥さんのような魅力的な方が、ご主人だけのものであるというのは、なんともったいない。まるで、太陽のような輝きを、一日中、戸の中に閉じ込めているようなものです。」

男性の言葉は、紗希の心の奥底に眠っていた、何らかの感情を揺り動かした。彼女は、健一との生活は安定していた。しかし、そこには「刺激」というものが、ほとんどなかった。日常は、平穏という名の単調さに覆われていた。

「…私は、夫を愛しています。」

紗希は、自分に言い聞かせるように言った。しかし、その言葉の響きは、自分自身にもあまり響かなかった。

「愛している、ですか。それは素晴らしいことです。でも、愛するということと、満たされるということは、また別のことだと、私は思います。」

男性は、そう言って、そっと紗希の手に自分の手を重ねてきた。その温かい感触に、紗希の全身を電流が走ったような感覚が走った。彼女の胸が、鼓動と共に高鳴る。それは、健一との日々では決して感じることのできない、生々しい熱だった。

「奥さん、あなたは、もっとご自身の魅力を解放していいんです。誰かに、ただ美しく、というだけでなく、もっと深く、もっと欲しく思われることを、経験してもいいはずです。」

男性の言葉は、魔術のように紗希の耳に滑り込んできた。彼女は、長らく抑えつけていた、ある種の「飢え」のようなものを感じていた。それは、肉体的なものだけではなく、精神的なもの、そして何よりも、自分という存在が、誰かに「強く求められる」という経験への飢えだった。

「欲求不満、ですか…？」

紗希は、ぽつりと呟いた。その言葉が、自分の中から自然に出てきたことに、彼女自身が一番驚いていた。

「ええ、誰にでもありますよ。特に、奥さんのように素晴らしい方なら、なおさらでしょう。その…胸の豊かさは、まさにそれを物語っているようです。」

男性は、紗希の胸元を、賛美するように見つめた。その視線は、もはや「アンケート」などという名目からはかけ離れた、純粋な欲求の現れだった。しかし、それは紗希にとって、不快なものではなかった。むしろ、その視線に、自分という存在が「価値あるもの」として認識されているような、奇妙な高揚感さえ感じていた。

「もし、もしよろしければ…」

男性は、さらに踏み込んできた。その視線は、紗希の瞳をまっすぐに見つめていた。

「今夜、少しだけ、私に…奥さんの、その魅力を、解放するお手伝いをさせていただけませんか？あなたの、まだ知らない一面を、一緒に見つけてみたいんです。」

紗希は、息を飲んだ。健一への罪悪感、社会的な規範、そして自分自身の理性。それらが、一斉に彼女の頭の中で渦巻いた。しかし、それ以上に、目の前の男性が放つ、抗いがたい魅力と、自分自身が感じている、抑えきれない「欲求」が、彼女を強く惹きつけていた。

「私、私は…」

彼女は、言葉を探した。その時、彼女の胸元が、わずかに、しかし確実に、呼吸と共に揺れた。それは、まるで、内側から解放されようとしている、瑠璃色の雫が、今にも溢れ出しそうな、そんな兆候のように見えた。

「…わかりました。」

紗希は、低く、しかしはっきりとした声で答えた。その声には、普段の彼女からは想像もつかない、ある種の決意のようなものが宿っていた。男性の顔に、満足げな笑みが広がった。

「ありがとうございます、藤原さん。」

その夜、紗希は、健一に「友人と食事に行く」とだけ告げて家を出た。彼女が向かったのは、男性が指定した、少し離れた静かなホテルだった。部屋に入ると、男性は、これまでとは打って変わって、より大胆な、しかしどこか優しさも感じさせる仕草で、紗希を迎えた。

「まずは、その美しいドレスを…。」

男性は、紗希の肩に手をかけた。指先が、ワンピースの生地を辿る。その触れ方には、下品さはなく、むしろ、彫刻家が名作に触れるような、敬虔ささえ感じられた。紗希は、その指先の感触に、身を委ねた。

ドレスがゆっくりと滑り落ちると、そこに現れたのは、まさに男性が「彫刻のよう」と表現した、豊かで、しかし上品な曲線を描く肉体だった。太陽の光を浴びて育まれた果実のように、瑞々しく、そして生命力に溢れていた。

「…素晴らしい。」

男性は、感嘆の息を漏らした。そして、その視線は、紗希の胸元に釘付けになった。彼は、まるで宝物を見つけたかのように、そっとその柔らかな感触を確かめるように触れた。紗希の体は、その触れ方に、震えた。

「ああ…なんて、温かいんだろう。」

男性の指先が、乳首へと吸い寄せられていく。紗希は、目をつぶった。これまで、健一との営みも、決して不快ではなかった。しかし、それは、義務感と、穏やかな愛情の延長線上にあるものだった。それに対して、この男性の触れ方は、彼女の体の奥底に眠っていた、原始的な欲求を、直接的に刺激するものだった。

「しゃぶる…」

男性の唇が、紗希の胸に吸い付いた。熱く、湿った感触が、紗希の全身を駆け巡った。彼女の体は、抗うように、しかし同時に、その刺激を求めて、硬直した。

「舐める…」

舌が、乳首の周りを、優しく、そして貪欲に這う。紗希は、腰が砕けるような感覚に襲われた。これまで、自分の中に、こんなにも激しい感情があったことを、彼女は知らなかった。

「ハメる…」

男性の指が、大胆に、そして慎重に、彼女の奥へと進んでいく。紗希の体は、その触れ方一つ一つに、敏感に反応した。それは、まるで、鍵穴にぴたりと合う鍵を探し求めるような、そんな感覚だった。

「なんでもござれの、変態妻…」

男性の囁きが、紗希の耳元で響いた。その言葉は、彼女の理性にとっては禁忌だった。しかし、彼女の体は、その言葉に、歓喜しているかのように、うずいた。

「私…私、こんな…」

紗希は、震える声で言った。しかし、その言葉は、非難ではなく、驚愕と、そしてある種の解放感に満ちていた。彼女は、これまでの自分という存在が、どれほど窮屈な檻の中に閉じ込められていたのかを、今、ようやく理解した。

男性は、紗希の顔を見つめた。そこには、罪悪感よりも、むしろ、抑えきれないほどの歓喜と、そして「もっと」という、強烈な欲求の光が宿っていた。

「そうですよ、奥さん。あなたは、もっと、こんな風に、誰かに求められていい。あなた自身の、その美しい体を、存分に、愛されるために、解放していいんです。」

その夜、紗希は、人生で初めて、「変態」と自覚するほどの、激しい快楽の奔流に身を任せた。それは、健一との関係では決して得ることのできない、原始的で、そして純粋な、自己の解放だった。彼女の胸元から、まるで瑠璃色の雫が、次々と溢れ落ちるかのように、彼女は、自分の中の新たな扉を開いたのだ。この経験が、彼女の日常をどう変えていくのか、それはまだ誰にも分からない。しかし、一つだけ確かなのは、紗希という女性は、もう、以前の彼女ではないということだった。彼女の体は、そして心は、この夜、確かに、ある「欲求」によって、変貌を遂げたのだ。