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■ 偽りの蜜月

真新しい指輪が、俺の左手の薬指で鈍く光った。妻となった沙織、そして彼女の連れ子である娘、桜。この三人で新しい生活が始まる。穏やかな日々を夢見ていた俺の甘い期待は、しかし、早々に現実という名の thorny path に迷い込むことになる。

「お父さん、今日のおかず、美味しいね」

桜が夕食の席で、俺に話しかけてきた。沙織も隣で微笑んでいる。中学三年生、思春期特有のあどけなさと、どこか大人びた表情が同居する桜。正直、最初は「父親代わり」という責任感と、沙織への愛情が俺の主な関心事だった。

「そう？ありがとう、桜」

俺は素っ気なく返したが、桜の視線は俺の顔から外れなかった。食事中も、食器を片付ける俺の後ろ姿を追うように、その視線は揺れ動いている。慣れないうちは、単に新しい父親への好奇心だろうと、そう思っていた。

しかし、その「好奇心」は、次第に奇妙な熱を帯びていく。

ある日の夜、俺が寝室で読書をしていると、ドアがノックされた。

「お父さん、まだ起きてる？」

桜の声だ。部屋着姿の彼女は、いつになく落ち着かない様子で、俺の顔をじっと見つめている。

「ああ、どうした？何かあったか？」

「ううん、あのね……」

彼女は言葉を詰まらせ、俺の胸元に視線を落とした。沙織の不在をいいことに、彼女は遠慮なく俺に近づいてくる。そして、俺のシャツのボタンに指をかけた。

「お父さんの、匂い……なんか、落ち着く」

その言葉と共に、彼女の顔が俺の胸に埋められた。予想外の行動に、俺は固まった。これは、一体どういうことだ？沙織の娘が、俺に、こんなにも…？

「桜、やめなさい。これは…」

俺が戸惑いを隠せないでいると、彼女は顔を上げ、俺の目を見つめた。その瞳には、純粋な好奇心だけではない、もっと深い、熱を帯びた光が宿っていた。

「お父さんと、ずっと一緒にいたい」

その言葉は、俺の心臓を激しく脈打たせた。それは、沙織の娘である彼女が、俺に抱いている感情が、単なる父親への慕情ではないことを、はっきりと告げていた。

（これは、千載一遇のチャンスではないか？）

俺の頭の中に、黒い囁きが響き渡った。沙織との結婚は、俺にとって安息の地のはずだった。しかし、桜の存在が、その安息を掻き乱し、俺の内に潜む欲望を呼び覚ます。

今まで、父親がいなかった桜。その空虚な心の隙間に、俺という「異性」が入り込み、彼女の性的な関心を惹きつけてしまった。そして、それは俺にとっても、抗いがたい誘惑となった。

（禁断の恋…年の離れた不倫相手…）

俺は、桜の熱を帯びた瞳を見つめ返した。彼女の若さ、そして俺への無垢な、しかし強烈な関心。それは、俺に都合の良い「関係」を、容易に築き上げられることを示唆していた。

「桜…」

俺は、沙織のいない家で、桜の熱に呼応するように、彼女の肩に手を置いた。その瞬間、俺は、沙織の夫として、桜の父親としての立場を捨て、別の顔を被ることを決意した。

「お父さん？」

桜の瞳が、期待に輝く。俺は、その輝きを、俺自身の欲望の火種に変える。

「お父さんも、桜と一緒にいたいよ」

俺は、彼女の言葉を、そのまま受け止めた。いや、むしろ、それをさらに歪め、俺の都合の良い「都合のいい女」の誕生へと導く。

その夜から、俺たちの関係は、急速に変化していった。沙織が仕事で遅くなる日、あるいは出張で家を空ける日。そんな日を、俺たちは心待ちにするようになった。

桜は、俺の些細な仕草にも敏感に反応し、俺の顔色を伺った。俺が彼女に軽く触れるだけで、彼女の体は硬直し、やがて熱を帯びた息遣いが、部屋を支配する。

「お父さん、もっと…」

彼女の囁きは、俺の耳元で甘く響く。俺は、沙織の面影を消し去り、桜にとっての、唯一無二の「男性」になろうとした。

「桜、お前は俺にとって…」

俺は、言葉を探す。しかし、どんな言葉も、この状況を適切に表現するには陳腐に思えた。

「都合のいい女」

いや、それは彼女自身が、俺の都合に合わせて「都合のいい女」になってくれるのだ。俺は、彼女の純粋な欲望を、俺の欲望のままに利用し、満たしていく。

ある日、沙織が俺に尋ねてきた。

「最近、桜があなたに懐いてるみたいで嬉しいわ」

俺は、作り笑顔で答えた。

「ええ、父親として、できるだけ仲良くしてあげたいんだ」

その言葉に、沙織は安心したように微笑んだ。彼女の知らないところで、俺と桜の間には、禁断の蜜月が繰り広げられていた。

桜は、次第に俺に依存していくようになった。学校での出来事、友達のこと、将来の夢…。彼女は、全てを俺に話した。そして、俺は、彼女の話し相手になり、時には、父親のように、時には、それ以上の存在になろうとした。

（これは、本当に俺の望むものなのか？）

時折、そんな疑問が俺の頭をよぎる。しかし、桜の熱に満ちた眼差し、そして、俺によって満たされる彼女の顔を見ると、その疑問はかき消されてしまう。

彼女の無垢な欲望は、俺にとって、甘く、危険な毒薬だった。一度手にしてしまったら、もう戻れない。

桜は、俺の「都合のいい女」になった。いや、正確には、俺が彼女を「都合のいい女」にしたのだ。彼女の若さと、父親への憧れ、そして俺への性的な関心。それらを巧みに操り、俺は、沙織の夫でありながら、桜の、禁断の「愛人」とも言える存在となった。

この関係が、いつまで続くのか。そして、その先に何があるのか。俺には、まったく見通しが立たなかった。ただ一つ確かなのは、俺は、この偽りの蜜月の中で、桜という「都合のいい女」と共に、危険な迷宮を歩み続けているということだった。

夜の帳が下り、沙織が眠りについた頃。俺は、そっと桜の部屋へと向かう。ドアを開けると、そこには、俺を待つ桜がいた。彼女の瞳には、あの日の熱が、変わらず宿っている。

「お父さん…」

彼女の声が、俺の心に染み渡る。俺は、沙織の夫として、桜の父親としての罪悪感を、一瞬だけ胸に抱く。しかし、その罪悪感も、桜の熱に触れると、すぐに熱狂へと変わっていく。

俺は、桜の前に立ち、彼女の顔を優しく撫でた。

「桜…」

俺の声は、彼女への、そして自分への、偽りの愛撫となって響く。

「お父さん、私…」

彼女は、言葉にならない声で、俺に甘えた。俺は、彼女の熱に身を任せる。

これは、千載一遇のチャンス。都合のいい女の誕生。そして、俺自身もまた、この状況を作り出した、都合のいい男となったのだ。

窓の外には、静かな夜空が広がっていた。その夜空の下で、俺と桜の、禁断の物語は、静かに、しかし確かに、続いていく。