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「お母さん、ちょっと手伝ってくれる？」

リビングのドアから顔を覗かせたのは、大学二年生の息子、健一だった。

「あら、健一。どうしたの？」

私が洗濯物を畳みながら尋ねると、健一は少し照れくさそうに、

「いや、あの…部屋、散らかっちゃっててさ。ちょっと片付けたいんだけど、一人じゃ大変かなと思って。」

普段、自分の部屋は「聖域」だとばかりに、私が入ることを極端に嫌がる健一が、自ら片付けを手伝ってほしいと言ってくるなんて、珍しいことだった。

「いいわよ。どこから始めましょうか？」

私がそう言うと、健一は嬉しそうに、

「じゃあ、まず僕の部屋から。よろしくお願いします！」

と、元気よく返事をして、自分の部屋へと向かっていった。

健一の部屋は、普段から本や服で溢れかえってはいたが、さすがに大学生活が始まってから、さらに荷物が増え、足の踏み場もないほどになっていた。

「うわぁ…本当にすごいことになってるわね。」

私が感心して言うと、健一は苦笑いを浮かべ、

「はは…ちょっと、やりすぎちゃったかも。」

と言いながら、乱雑に積まれた本を片付け始めた。

私は、健一が片付けやすいように、邪魔にならないよう、部屋の隅で、散乱した服を畳んだり、ホコリを拭いたりしていた。

その時、ベッドの下に落ちていた、一枚の布切れが私の目に留まった。

「あら、これ何かしら？」

私がそれを拾い上げると、それは、見慣れないデザインの、女性用の下着だった。

淡いピンク色で、レースがあしらわれた、可愛らしいデザイン。

「え…？」

私は、思わず固まってしまった。

健一は、付き合っている彼女はいないはずだ。

それに、いくらなんでも、こんな可愛らしい下着を、健一が持っているはずがない。

「まさか…」

私の脳裏に、ある疑念がよぎった。

この数週間、近所で下着泥棒が頻繁に発生しているという噂を耳にしていたのだ。

最初は、単なる噂だと思っていた。

しかし、目の前にある、この見慣れない下着。

そして、健一の普段とは違う、どこか落ち着かない様子の顔。

「健一…これ、どこから出てきたの？」

私が、震える手で下着を健一に見せると、健一の顔から、みるみるうちに血の気が引いていった。

「あ…いや、その…」

言葉に詰まり、顔を真っ青にして、視線を泳がせる健一。

その様子を見て、私の心臓は、嫌な予感でいっぱいになった。

「健一…この下着、あなたのものじゃないわよね？」

私の問いに、健一は、答えることができなかった。

ただ、俯いて、沈黙を守るばかり。

その沈黙が、私には、すべての答えだった。

「…まさか、あなた…？」

私は、信じられない気持ちで、健一を見つめた。

息子の部屋を掃除していて、息子の性癖を知ってしまうなんて。

しかも、その性癖が、近所で噂になっている下着泥棒と、関係があるかもしれないなんて。

「健一…なぜ？」

私の声は、涙で震えていた。

健一は、顔を上げ、まっすぐ私の目を見た。

その瞳には、後悔の色はない。

むしろ、何か決意のようなものが宿っているように見えた。

「お母さん…ごめんなさい。」

健一は、そう言って、再び俯いた。

しかし、その謝罪の言葉は、私には、まったく響かなかった。

私の心は、恐怖と、裏切られたという思いで、いっぱいになっていた。

その夜、私は、眠れなかった。

健一の部屋から見つかった下着のこと。

近所の噂のこと。

そして、何よりも、息子が、私を裏切っていたという事実。

翌日、健一は、いつものように大学へ行った。

私は、健一がいない間に、もう一度、健一の部屋を調べることにした。

何か、間違っているのかもしれない。

健一が、あの下着を、どこかから拾ってきただけかもしれない。

そう、自分に言い聞かせながら、私は、健一の部屋に入った。

部屋の隅々まで、くまなく探した。

引き出しの中、本棚の裏、クローゼットの中。

しかし、何も見つからなかった。

あの下着以外に、健一が、下着泥棒であることを示唆するものは、何もなかった。

「やっぱり…」

私は、失望と、恐怖で、膝から崩れ落ちそうになった。

その時、玄関のドアが開く音がした。

「ただいまー！」

健一の声だ。

しまった！

私は、慌てて、健一の部屋から出ようとした。

しかし、その時、健一が、私の姿を見つけた。

「お母さん？どうしたの？こんなところで。」

健一は、怪訝な顔で、私を見ていた。

私は、健一に、何か言い訳をしようとした。

しかし、言葉が出てこなかった。

健一は、私の手にある、あのピンク色の下着に気づいた。

そして、私の顔色を見て、すべてを察したようだった。

「…お母さん、僕の部屋、勝手に入ったでしょ？」

健一の声は、冷たかった。

「ち、違うの…！」

私は、必死に弁解しようとした。

しかし、健一は、私の言葉を聞こうとしなかった。

「もう、いいよ。」

健一は、そう言って、私の肩を掴んだ。

その力は、普段の健一からは想像できないほど強かった。

「健一…離して！」

私は、抵抗した。

しかし、健一は、私の手を振り払い、私を壁に押し付けた。

「お母さん…なんで、僕を信じてくれないの？」

健一の顔は、怒りで歪んでいた。

「信じて…」

私は、泣きながら、そう言った。

しかし、健一は、私の言葉を聞き入れようとしなかった。

「もう、うんざりなんだよ！」

健一は、そう叫ぶと、私の服に、手を伸ばしてきた。

「やめて！健一！」

私は、必死に抵抗した。

しかし、健一の力は、私のそれを遥かに凌駕していた。

その日以来、私の人生は、一変した。

健一は、父の目を盗んでは、私に迫るようになった。

断っても、聞く耳を持たない。

私の悲鳴も、抵抗も、健一には、届かない。

毎晩、私は、恐怖に怯えながら、眠りにつく。

息子の部屋を掃除していた母は、息子の性癖を知ってしまう。

そんな時、近所で下着泥棒が多発していると噂を耳にする。

息子を疑う母は、息子の留守中に部屋を探し回っていた。

しかし、突然息子が帰宅。

母の行動に嫌気が差して、母を無理矢理…。

以来、息子は、父の目を盗んでは、母に迫る日々が繰り返されていった。

これは、私の、悪夢のような、日常だった。