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真紅のベルベットのカーテンが、薄暗い部屋をさらに深く沈ませる。その奥に、身をよじらせるようにして座る女がいた。名は、葵。二十歳そこそこであろうか、細い腕にはあざが残り、唇は血の気のない青白い色をしていた。彼女は奉仕女だ。いや、それ以上の存在だ。複数の魂が、彼女の身体を共有している。

葵は、記憶を断片的にしか持たない。断片的な記憶は、官能と苦痛、屈辱と快楽が混ざり合った混沌とした絵巻物のように、彼女の意識の淵を流れていく。ある時は、高倉綾として、上品な笑顔で顧客のあらゆる要求に応える。完璧な秘書、気品のある貴婦人、あるいはいたずら好きな少女…彼女は、顧客の望むどんな姿にも変幻自在に変化する。その姿は、まるで彼女自身の魂ではなく、借り物のように、どこか他人行儀だ。

そして、ある時は、真純まことして、無垢で純粋な少女を演じる。無邪気な笑顔で顧客の体を優しく撫で、彼らを極楽へと誘う。しかし、その純粋な瞳の奥には、深い闇が潜んでいる。その闇は、顧客の欲望を満たすことで、わずかな満足感を得ているようだが、同時に、底知れぬ空虚感を抱えている。

また別の時、彼女は岸本絵梨として、冷徹で知的な秘書となる。完璧な仕事ぶりで顧客を魅了し、その裏で、顧客の隠された欲望を巧みに操る。彼女の手にかかれば、どんな強大な権力者も、彼女の掌の上で転がる小さなコマに過ぎない。しかし、その冷静な思考の背後には、深い孤独と、満たされない感情が隠されている。

これらの記憶、それぞれの魂の断片は、互いに干渉し、衝突し、ときには共鳴する。時には、一つの身体の中で複数の魂が同時に目覚め、彼女自身を混乱の淵に突き落とす。その混乱の中、葵は、自分が何者なのか、何を求めているのか、理解できずに苦しむ。

ある日、彼女は、ある顧客との出会いをきっかけに、異なる魂たちの断片が、少しずつ繋がってゆくのを感じる。その顧客は、他の顧客とは異なり、彼女の痛みや苦しみを理解しようと試み、彼女の魂に優しく触れてくれた。彼の温もりは、長年凍てついていた葵の心を解きほぐし、それぞれの魂が抱える闇を照らし始める。

彼は、高倉綾の優雅さ、真純まこの純粋さ、岸本絵梨の知性、すべてを愛し、受け入れる。彼女の多重人格を、欠点ではなく、彼女自身の個性、魅力として捉えたのだ。その彼の優しさに触れることで、葵は初めて、自分の存在を受け入れ始める。

しかし、その幸せな時間は長くは続かなかった。顧客たちの欲望は、底知れぬ深淵であり、葵は再び、その深淵に飲み込まれそうになる。彼女は、自分の存在意義を問い続け、自身の魂の統合、そして、真の自由を求める旅に出る。

その旅の過程で、彼女は様々な人々に出会い、それぞれの魂の断片にまつわる秘密を解き明かしていく。彼女は、過去に何があったのか、なぜ彼女はこんな運命を背負わなければならなかったのか…少しずつ、断片的な記憶が繋がり、彼女の過去が明らかになっていく。

最終的に、葵は自分の運命を受け入れ、それぞれの魂と和解する。もはや彼女は、単なる「奉仕女」ではない。彼女は、複数の魂を持つ、強い女性として、自身の道を歩み始める。その歩みは、決して容易ではない。しかし、彼女は、自身の魂と、そして、彼女を愛してくれた人々と共に、未来へと進んでいく。彼女の旅は、彼女自身の解放、そして、真の自己発見の物語だったのだ。  彼女は、もはや「卑しき奉仕女」ではない。彼女は、自身の魂を掌握した、強くて美しい女性である。そして、その輝きは、いつまでも消えることはないだろう。